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素敵なドレス
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「あらあらまあ」
マダムが変な声を出した。そして一人言を言い始める。
「私の見立てが外れるとはどうした事かしら、外した事などないというのに。見た感じ、痩せた貧相な身体だと思ったらとんでもない。触ってみると出る所は出て、締まる所は締まった完璧なボディラインだわ」
ビスチェも小さいものでは胸が収まらず、何度も大きなサイズに変更された。
アンジェリカ自身も驚いていた。自分はガリガリで女らしい曲線など無い身体だと思っていたのだ。
「これならどんなドレスでも着られますね。まずはこのマーメイドラインを着てみましょう」
人魚のように身体にピッタリと沿ったドレスはアンジェリカの美しいカーブを否が応でも強調した。
「このひっつめた髪は解きますわよ」
家庭教師のようにきっちり纏めた可愛げの無いシニヨンを解き、髪をほぐしてから緩く結い上げた。
鏡を見ると、『顔以外は』完璧な女性がそこにいた。
「殿下。これはいかがでしょう」
マダムはカーテンをサッと開けてヴィンセントを呼び入れた。アンジェリカは胸が強調されているのが恥ずかしく、思わず側にあったスカーフで胸を隠した。
「……素敵だ」
ヴィンセントはそれ以上何も言えず顔を真っ赤にしてプイと横を向いてしまう。
「このドレスを着るなら背筋を伸ばしてもらわなくてはいけません」
マダムはアンジェリカの背中をピシッと叩いた。
「猫背はドレスを台無しにします。高いドレスを着ても意味がありません。逆に、安いドレスでも堂々と着こなせば立派に見えるもの。あなたはまずこの姿勢を直さなければなりませんよ」
「は、はいっ」
それからはマダムの独壇場だった。いろんなドレスを着せ、何かひらめけばペンを取りスケッチを始める。そして最後に一枚のデザイン画が出来上がった。
「背がお高くていらっしゃるので身体にそったシンプルなラインで大人っぽく。ローウエストデザインでスタイルの良さを際立たせ、スカートはプリンセスラインで横にボリューム感を出し、身長の高さを視覚的にカバーいたしましょう」
「……素敵……」
アンジェリカはうっとりとそのデザイン画を眺めた。毎年学園主催のダンスパーティーが行われるのでウォルターと出席していたが、彼の指示で身体のラインに沿わない野暮ったいドレスを選んでいた。流行の、素敵なドレスを着たクラスメイトを羨ましく思っていたが、どうせ似合わないのだしと諦めていたのだ。
「お色はどう致しましょうか」
マダムが生地のサンプルを並べて見せてくれた。こんな自分に似合う色などまったくわからない。困っているとヴィンセントが助け舟を出してくれた。
「君の美しい菫色の瞳に合わせるといいんじゃないかな」
その一言で、上品な紫色の生地に決まった。
「この生地は重ねると美しいのですよ。ボリュームのあるスカート部分はドレープがたくさんありますから、動くたびに色のニュアンスが出てダンスパーティーでは映えますわ」
「どうだい? アンジェリカ」
「とても、美しいですわ……」
出来上がったドレスを想像してアンジェリカは感嘆の声を漏らした。
「じゃあマダム、これで作ってくれ。三ヶ月後のパーティーに間に合うようにね」
「承知致しました。全力で仕上げさせていただきます」
それを聞いてアンジェリカはハッと気が付いた。夢の中から現実に引き戻されたのだ。
「殿下、でも私……こんな高級なドレスをいただく理由がございません!」
「僕の方に理由があるんだよ、アンジェリカ」
「え……」
「君と卒業パーティーに参加したいと思っているからね。このドレスを贈って申し込むつもりだよ」
マダムが変な声を出した。そして一人言を言い始める。
「私の見立てが外れるとはどうした事かしら、外した事などないというのに。見た感じ、痩せた貧相な身体だと思ったらとんでもない。触ってみると出る所は出て、締まる所は締まった完璧なボディラインだわ」
ビスチェも小さいものでは胸が収まらず、何度も大きなサイズに変更された。
アンジェリカ自身も驚いていた。自分はガリガリで女らしい曲線など無い身体だと思っていたのだ。
「これならどんなドレスでも着られますね。まずはこのマーメイドラインを着てみましょう」
人魚のように身体にピッタリと沿ったドレスはアンジェリカの美しいカーブを否が応でも強調した。
「このひっつめた髪は解きますわよ」
家庭教師のようにきっちり纏めた可愛げの無いシニヨンを解き、髪をほぐしてから緩く結い上げた。
鏡を見ると、『顔以外は』完璧な女性がそこにいた。
「殿下。これはいかがでしょう」
マダムはカーテンをサッと開けてヴィンセントを呼び入れた。アンジェリカは胸が強調されているのが恥ずかしく、思わず側にあったスカーフで胸を隠した。
「……素敵だ」
ヴィンセントはそれ以上何も言えず顔を真っ赤にしてプイと横を向いてしまう。
「このドレスを着るなら背筋を伸ばしてもらわなくてはいけません」
マダムはアンジェリカの背中をピシッと叩いた。
「猫背はドレスを台無しにします。高いドレスを着ても意味がありません。逆に、安いドレスでも堂々と着こなせば立派に見えるもの。あなたはまずこの姿勢を直さなければなりませんよ」
「は、はいっ」
それからはマダムの独壇場だった。いろんなドレスを着せ、何かひらめけばペンを取りスケッチを始める。そして最後に一枚のデザイン画が出来上がった。
「背がお高くていらっしゃるので身体にそったシンプルなラインで大人っぽく。ローウエストデザインでスタイルの良さを際立たせ、スカートはプリンセスラインで横にボリューム感を出し、身長の高さを視覚的にカバーいたしましょう」
「……素敵……」
アンジェリカはうっとりとそのデザイン画を眺めた。毎年学園主催のダンスパーティーが行われるのでウォルターと出席していたが、彼の指示で身体のラインに沿わない野暮ったいドレスを選んでいた。流行の、素敵なドレスを着たクラスメイトを羨ましく思っていたが、どうせ似合わないのだしと諦めていたのだ。
「お色はどう致しましょうか」
マダムが生地のサンプルを並べて見せてくれた。こんな自分に似合う色などまったくわからない。困っているとヴィンセントが助け舟を出してくれた。
「君の美しい菫色の瞳に合わせるといいんじゃないかな」
その一言で、上品な紫色の生地に決まった。
「この生地は重ねると美しいのですよ。ボリュームのあるスカート部分はドレープがたくさんありますから、動くたびに色のニュアンスが出てダンスパーティーでは映えますわ」
「どうだい? アンジェリカ」
「とても、美しいですわ……」
出来上がったドレスを想像してアンジェリカは感嘆の声を漏らした。
「じゃあマダム、これで作ってくれ。三ヶ月後のパーティーに間に合うようにね」
「承知致しました。全力で仕上げさせていただきます」
それを聞いてアンジェリカはハッと気が付いた。夢の中から現実に引き戻されたのだ。
「殿下、でも私……こんな高級なドレスをいただく理由がございません!」
「僕の方に理由があるんだよ、アンジェリカ」
「え……」
「君と卒業パーティーに参加したいと思っているからね。このドレスを贈って申し込むつもりだよ」
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