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しおりを挟むカレスティア王宮の何倍も広く豪華な宮廷。気を失ったままのフェルナンドとともにウィルとエレナは謁見の間に通された。
一段高い場所に設えた豪奢な玉座には皇帝アダルベルトと正妃が座っており、重臣たちもズラリと傍に控えている。
「フェルナンドが来るとのことだったが、のびておるな。治癒魔法師を呼べ」
フェルナンドの顔は見事に腫れ上がり、相変わらず気を失ったままであった。
「お前がフェルナンドをこのような目にあわせたのですか? ウィルフレド! 兄であるフェルナンドにこのような非道、許せません。陛下、この者に処罰を!」
「黙っておれ、テオドラ」
正妃テオドラはアダルベルトに睨まれてグッと黙り込んだ。
治癒魔法師が現れてフェルナンドに治療を施していくと、見る間にその傷は綺麗になっていく。彼は去り際にエレナの顔の傷も治してくれた。
(すごいわ、あっという間に……。私はまだ、自分の意思で治癒できるわけではない。ウィルを助けたいと思ったあの時に一度、出来ただけだから)
もしも自在に治癒魔法が使えるとしたら、それを生業にして生きていけるかもしれない。
「目が覚めたか、フェルナンド」
「うっ……は、はい、父上。……あっ! お前、ウィルフレド! よくも俺に手を出しやがったな! 母上! こいつに罰を!」
「黙れフェルナンド」
苛立ちを纏ったアダルベルトの声にフェルナンドは震え上がり、即座に黙った。
「では、ウィルフレドよ。仔細を聞かせてもらおうか」
ウィルは頷き、一歩前に出て話し始める。
「緋色の魔女はカレスティア王国の侯爵令嬢、リアナ・ディアスでした。魅了の力を使って王族を始め王都中の民の心を奪い、多くの者を処刑していたのです」
「お前の横にいるのがその魔女か?」
「いえ。この令嬢はエレナ・ディアス、リアナの双子の妹として育ちましたが実際には双子ではありません。
リアナは彼女が生まれる時に彼女に取り憑いて身体を作り出し双子としてこの世に現れたのです。
そして十六才の誕生日を迎えた日に魔女としての記憶を取り戻し、エレナを殺して完全なる魔女になることを目論んでいました」
そしてウィルはリアナが語った三百年前の話をアダルベルトに聞かせた。
聖女が王太子に裏切られ、それを恨んだことで聖女から魔女へと変貌したのだということを。
「では、そこにいる女に魔女の力が封じられていて、それを奪うために魔女はその女を殺そうとしていたわけだ」
「はい。しかしエレナの祈りによって全ては消え去りました」
「それはつまり……お前は聖女ということか」
アダルベルトの厳しい視線に射すくめられ、エレナはゾクリとした。嘘を言っても見透かされる。そんな視線だった。
「はい。恐れながらそのような啓示を受けました」
「お前の中に聖女と魔女、両方の力が混在していたのだな? その魔女の力、再び現れることはないと断言できるか」
「はい。必ず」
エレナはそう答えた。自ら魔女の力を望まなければきっと大丈夫。闇に堕ちることのないように、一生自分を戒めておくつもりだ。
「ふむ……ではお前の身柄、このコンテスティ帝国で預かる。数百年に一度しか現れない聖女は我が帝国に生まれたことがまだない。帝国初の聖女として丁重に扱ってやろう」
「え……」
「今回の手柄でウィルフレドが皇太子に決まりだ。聖女エレナはその妃とする。我が帝国にとって重畳だ。皇太子と同時に妃も決まったのだから」
「陛下、彼女の気持ちも聞かずにいきなり勝手なことは仰らないで下さい!」
「そうか? ウィルフレド。私はそうは思わないが」
ニヤリと笑うアダルベルト。エレナは戸惑いを隠せない。聖女となってコンテスティに留まることも、ウィルの妃になることも。
(私がウィルの妃……?)
その未来を少しだけ想像してしまったエレナ。とても現実とは思えない未来。
「……エレナ。父に命令されたからではないというのはわかって欲しい」
ウィルがエレナの手を取る。安心しろというように、グッと力を込めて。そしてスッと跪いて言った。
「俺はこれから先の人生をエレナとともに生きていきたい。お前が辛い時も悲しい時も必ず支えていくことを誓う。そして生涯変わらぬ愛を捧げよう。どうか、俺の妃になって欲しい」
熱い目で見つめられエレナの頬は染まった。皇太子妃という立場は茨の道かもしれない。でもウィルとなら、それでも進んでいきたいとそう思った。
「はい、ウィル、……フレド殿下。お願いいたします」
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