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 それから三日が過ぎた頃。エレナたちが訪れた店に王宮軍の兵士が二人やって来た。

「店主。この鞄はどこで手に入れた」

「へ、へい。ちょっと前に女二人組が旅の服を買いに来まして、その時に交換して置いて行った物ですが、何か……」

「その女はこのような顔だったか」

 兵士が見せた紙にはエレナの顔が描かれていた。

「ああ、確かに一人はこんな顔でした。でも髪型は違いますねえ。もっとこう短い、少年のような髪でしたよ」

 兵士は頷き合うとまた店主に尋ねた。

「どこへ向かうか言っていなかったか」

「いやあそれは聞いてないですねえ。この道をあっちへ行ったから、北へ向かうんじゃないですかね」

 再び頷き合った兵士は鞄を持ち上げた。

「この鞄は押収する」

「えっ! これ、五十リーレも払ったんですよ。お代は下さいよ」

「これは証拠品だ。文句があるなら王宮軍へ言え」

「そんな……」

 食い下がろうとした店主を剣の鞘で殴りつけると、兵士は街道を北へ向かった。その手にはエレナのドレスも握られていた。





 一旦北へ向けて歩き出した三人は途中で街道を外れて林を抜け、再び南へと進路を取っていた。

「あの町にはだいぶ痕跡を残しているからな。用心のためだ」

「すごいね、ウィルは……私って本当に何も考えずに生きてきたんだなあ」

 感心するエレナにウィルは大したことないと言うように肩をすくめた。

「ねえ、二人はどこの国の生まれなの?」

 すると二人は一瞬顔を見合わせた後、ウィルが口を開いた。

「西の海に浮かぶ小さな島だ」

「それって、トリアデル島?」

「なんだ、知っているのか?」

 とても驚いた声でウィルが言う。

「本で読んだことあるの。美しい宝石の取れる島で、しかも美男美女ばかり生まれてくるって」

「ふっ……それは大袈裟だな。確かに宝石は豊富に取れるが、住んでいるのは普通の人々だ」

「でも二人とも美男美女だもの。きっと、ご両親もそうなんでしょうね」

 また二人が顔を見合わせる。エレナはハッと気がつき、謝った。

「ごめんなさい。もしかしてもう二人のご両親は……」

 すると二人は笑い始めた。

「え、ええ……なんでぇ……」

 困惑するエレナの頭にウィルがポンと手を置いた。まるで本当の妹のように。

「すまんすまん、二人とも元気だ。ただ、自分の親が美男美女なんて思えなくてつい、な」

 声を上げて笑うウィルとイネス。つられてエレナも笑う。実の兄ともリアナとも、こんな風に楽しく笑い合うことはなかった。不意に一粒、エレナの目から涙がこぼれる。

「どうした? エレナ」

「なんだか嬉しくて……二人が、まるで私の家族のように思えて。幸せだなぁって思っちゃって……」

 イネスがエレナの腰をそっと抱く。ウィルはエレナの頭に置いた手をワシャワシャと動かして髪をボサボサにした。

「もう! やめてよウィル!」

 ウィルの手を持ち上げながら泣き笑いするエレナ。
 血の繋がらない人とだって、こんなに楽しくなれる。生きていて良かった。あの時殺されなくて本当に良かった。心からそう思った。
 

 

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