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 その日暗くなる前には南へ向かう街道の一つ目の宿場町に到着した。
 ウィルとイネスは馬とドレスを売り払い、その日は宿に泊まることにした。

「じゃあ、私がエレナと同じ部屋で」

「ああ。頼んだぞ」

 エレナをベッドにそっと寝かせると、ウィルは自分の部屋に戻って口笛を吹く。すると窓からツバメが姿を現した。

「どうだ、エミリオ」

 するとツバメが口を開け、その口から人間の声が聞こえてきた。

「ウィルフレド様、リアナ・ディアスの件です。リアナは昨日、王太子クルスの婚約者として国内外に発表されました。金髪に紫の瞳、美しいと評判の令嬢です。
 おかしなことに、彼女に実際に会ったことのある人々は彼女を奇妙なほど褒めちぎります。そして皆、双子の妹であるエレナ・ディアスを蛇蝎のごとく嫌っています。
 しかしその理由を聞いてもハッキリと答えられる者はいない。なぜだかわからないが嫌いだと言うのです。
 何かしらの力が働いているのではないでしょうか」

「なるほど……」


 双子の姉リアナは魅了の力を持っているのかもしれない。その力を持つ者は老若男女全ての人を虜にする。そしてリアナが『エレナより私を愛して』と念じていた場合、エレナはリアナの敵だと認識されて人々から敵意を向けられるだろう。

 そう考えると、エレナがあらゆる者から虐げられてきたことにも納得がいく。

(だが、そうなるとエレナが魔女のオーラに近いものを纏っていたことはどう考えたらいいだろう。もしエレナが魔女ならば、周りからそんな扱いを受けて大人しく黙っているわけがない。一国を滅ぼすほどの力を持つ『緋色の魔女ストレーガ・ロッサ』なのであれば)


 悲鳴を聞いて駆けつけたあの時、あの男の身体は馬車から弾かれるように飛び出してきた。男を取り押さえながら横目でエレナを見ると、腕で顔を庇いただ怯えているだけで男を突き飛ばした様子は全くなかった。そしてその時限りではあったがウィルは確かにエレナから魔女のオーラを感じたのだ。

(あれからずっと様子を見ているがエレナからあの黒いオーラを感じたことはない。命の危険がある時だけ現れるのだろうか。そして双子の姉の存在……何か、嫌な感じがする)

「エミリオ、引き続きリアナの動向を探ってくれ。俺はエレナをこのまま見張る」

「わかりました」

 ツバメが夜空に姿を消すとウィルは目を閉じて呪文を唱える。すると手の平から魔法陣が展開され、ウィルの部屋とエレナたちの部屋に結界が張られた。

(今夜はゆっくり眠るとするか)

 この国へ入ってからずっと気を張ってきた。大人に見えても彼はまだ十八歳の若者。久しぶりのベッドに崩れるように倒れ込み、深い眠りに落ちていった。




 
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