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そんな風に考えていた時、馬車が静かに止まった。そして馬車のドアが開けられ、ウィルフレドが顔を覗かせた。
「今夜の宿はここにしよう」
「え……でも、ここは」
森はとっくに抜けていたが、宿場にはまだ着いていない。街道から外れた林の中に馬車は止まっている。
「アルバ男爵領への最後の宿場は宿が一つしかない。泊まるとすればそこしかないのだから、君の命を狙う輩が襲って来ないとも限らないだろう」
「あっ……」
確かにそうだ。御者の男だけが刺客とは限らない。失敗を見越して第二第三の攻撃が来るかもしれないのだ。
「ここは小川もあるし寝るには丁度いい。イネス、俺はこの馬車を捨ててくるから野営の準備を頼む」
「はいはい。お任せあれ」
呆然とするエレナをよそに、二人はテキパキと動き出した。そしてウィルフレドは御者台に乗り、馬を走らせて猛スピードで街道へと戻って行った。
火をおこし、手際よく食事の準備をするイネス。何も出来ないエレナは恥ずかしく思いながら、彼女のすることを見つめていた。
スープを煮込みながらイネスがエレナに尋ねる。
「ごめんなさいね。あの子、ちょっと無愛想で怖くない?」
「いえ、そんなことは」
確かに笑顔は見せないけれど、言葉に棘は無いし嫌な気持ちはしなかった。何より、エレナを助けてくれた大恩人なのだ。
「馬車を捨てるっていうのはどういうことですか?」
「馬車で旅をすれば楽だけど、あなたがあれに乗っていたのは相手にバレているわけでしょう。だから、これから先も狙われてしまうの。あなた……黙って殺されるつもりはないでしょう?」
「……はい。私、まだ死にたくないです」
「だったら、私たちが一緒に行ってあげましょうか」
「えっ」
「あなた一人では無駄に殺されるだけでしょう? 私たちこれでも、用心棒として雇ってもらえるくらいの腕は持っているの。きっと力になれるわよ」
「でも……でも私、あなた方に用心棒代をお支払いできるほどのお金を持っていません」
焦るエレナに、イネスはにっこりと笑って言った。
「どうせ気ままな旅路だったんだもの。お代はそうね、そのサッシュベルトに挟んであるお金くらいでいいわよ。それと、そのドレス。それも売り払えばまあまあのお金になるわ」
確かに。リアナほどではないとはいえ、ちゃんとしたドレスである。
「で、どこに行けばいいの? アルバ男爵のところ?」
(そうだ。私は、アルバ男爵に嫁ぐためにここまで来たんだった。でも、それってちゃんとした契約なの? 私を殺すつもりだったなら私が姿を見せなくても構わないのでは)
エレナがぐるぐると考えていると、いつの間にか戻っていたウィルフレドが後ろから声を掛けた。
「アルバ男爵なら先週死んだぞ」
「えっ!」
振り向いたエレナは驚きの声を上げた。
「ああ、そういえばそうだったわね。エレナちゃん、私たち先週アルバ領を通って来たのよ。老男爵が老衰で亡くなって、領内が喪に服していたわ」
「跡継ぎの息子には妻子がいたはずだ。君の出る幕は無いと思うが」
「そうですか……」
エレナは呆然とした。もう、訳がわからない。嫁ぐはずだった男爵は亡くなり、私はリアナに殺されかけて。全てが父の計算通りなのか、リアナの思惑なのか。
「私、どうしたらいいのでしょう……」
縋る思いで投げかけた言葉に、ウィルフレドは冷たく言い放った。
「それは、君が自分で決めることだ」
ジワリと涙が滲む。でも彼の言うことは正しい。自分の行く先は自分で決めなくては。
「今夜の宿はここにしよう」
「え……でも、ここは」
森はとっくに抜けていたが、宿場にはまだ着いていない。街道から外れた林の中に馬車は止まっている。
「アルバ男爵領への最後の宿場は宿が一つしかない。泊まるとすればそこしかないのだから、君の命を狙う輩が襲って来ないとも限らないだろう」
「あっ……」
確かにそうだ。御者の男だけが刺客とは限らない。失敗を見越して第二第三の攻撃が来るかもしれないのだ。
「ここは小川もあるし寝るには丁度いい。イネス、俺はこの馬車を捨ててくるから野営の準備を頼む」
「はいはい。お任せあれ」
呆然とするエレナをよそに、二人はテキパキと動き出した。そしてウィルフレドは御者台に乗り、馬を走らせて猛スピードで街道へと戻って行った。
火をおこし、手際よく食事の準備をするイネス。何も出来ないエレナは恥ずかしく思いながら、彼女のすることを見つめていた。
スープを煮込みながらイネスがエレナに尋ねる。
「ごめんなさいね。あの子、ちょっと無愛想で怖くない?」
「いえ、そんなことは」
確かに笑顔は見せないけれど、言葉に棘は無いし嫌な気持ちはしなかった。何より、エレナを助けてくれた大恩人なのだ。
「馬車を捨てるっていうのはどういうことですか?」
「馬車で旅をすれば楽だけど、あなたがあれに乗っていたのは相手にバレているわけでしょう。だから、これから先も狙われてしまうの。あなた……黙って殺されるつもりはないでしょう?」
「……はい。私、まだ死にたくないです」
「だったら、私たちが一緒に行ってあげましょうか」
「えっ」
「あなた一人では無駄に殺されるだけでしょう? 私たちこれでも、用心棒として雇ってもらえるくらいの腕は持っているの。きっと力になれるわよ」
「でも……でも私、あなた方に用心棒代をお支払いできるほどのお金を持っていません」
焦るエレナに、イネスはにっこりと笑って言った。
「どうせ気ままな旅路だったんだもの。お代はそうね、そのサッシュベルトに挟んであるお金くらいでいいわよ。それと、そのドレス。それも売り払えばまあまあのお金になるわ」
確かに。リアナほどではないとはいえ、ちゃんとしたドレスである。
「で、どこに行けばいいの? アルバ男爵のところ?」
(そうだ。私は、アルバ男爵に嫁ぐためにここまで来たんだった。でも、それってちゃんとした契約なの? 私を殺すつもりだったなら私が姿を見せなくても構わないのでは)
エレナがぐるぐると考えていると、いつの間にか戻っていたウィルフレドが後ろから声を掛けた。
「アルバ男爵なら先週死んだぞ」
「えっ!」
振り向いたエレナは驚きの声を上げた。
「ああ、そういえばそうだったわね。エレナちゃん、私たち先週アルバ領を通って来たのよ。老男爵が老衰で亡くなって、領内が喪に服していたわ」
「跡継ぎの息子には妻子がいたはずだ。君の出る幕は無いと思うが」
「そうですか……」
エレナは呆然とした。もう、訳がわからない。嫁ぐはずだった男爵は亡くなり、私はリアナに殺されかけて。全てが父の計算通りなのか、リアナの思惑なのか。
「私、どうしたらいいのでしょう……」
縋る思いで投げかけた言葉に、ウィルフレドは冷たく言い放った。
「それは、君が自分で決めることだ」
ジワリと涙が滲む。でも彼の言うことは正しい。自分の行く先は自分で決めなくては。
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