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 やがて迎えた十六歳の誕生日。屋敷では盛大に誕生日の宴が催された。未来の王太子妃の誕生日を祝うためにたくさんの貴族が訪れ、リアナは学園の友人に囲まれて幸せそうに笑っている。

 最初の挨拶こそ「リアナとエレナの誕生日にようこそ」というものだったが、それっきり誰もエレナに話し掛けることはなく、ポツンと一人壁際に佇むばかりであった。

(いつもは家族だけの誕生会だったから誰にも祝ってもらえなくても部屋に戻って本を読んで過ごすことができていたけれど……今日はそれもできないのが辛いわ)

 たくさんのプレゼントを両腕に抱えたリアナ。みんなに愛されているリアナ。ほんの少しだけ、羨む気持ちが湧いてくる。

(ダメよ。人を羨む気持ちは道を誤れば妬みに繋がる。リアナは愛らしいから愛されて当然なの。リアナと自分を比べて惨めになっちゃ……いけない)

 リアナが光なら自分は影。側にいるから眩しくて誰にも見てもらえないのかもしれない。遠くに離れたなら、もしかしたら愛されるかもしれないとエレナは自分を慰めた。

 パーティーが終わり、ようやく開放された。エレナは早々にベッドに潜り込んで辛い現実から逃れようとした。灯りを消すと、部屋の中は真っ暗で月明かりが感じられない。

(そうね、今夜は新月だから……月が出ていないんだわ)

 誕生日に漆黒の月。自分にはお似合いだ、と自嘲しながら目を閉じた。


 どのくらい経っただろう。もしかしたら眠っていたのかもしれない。何かの気配を感じてエレナは目を開けた。

「……!」

 暗い部屋の中にさらに黒い人影。

「誰……!」

 だがエレナにはそれが誰かわかっていた。双子の姉、リアナだ。

「リアナでしょう? どうしたの、こんな夜中に」

 うっすらと見えたその顔は、仮面をつけたように無表情だ。そしてリアナはエレナの首に手を伸ばし、喉元を締め付けてきた。

(苦しい……! イヤ、やめてリアナ……!)

 必死でもがくエレナ。するとリアナは何かに弾かれたように後ろへ下がった。

「ゴホッ、ゴホッ……」

 涙の溜まった目でリアナの姿を追うエレナ。

「リアナ、どうして……? なぜこんなこと……」

 だがそれには答えず、リアナはふらりと部屋を出て行ってしまった。パタンとドアの閉まる音が聞こえる。

(リアナ、なぜ……? そんなに私が憎いの? 明日には私はここからいなくなるのに……)

 今までリアナから憎まれていると感じたことはなかった。あるのはただ。エレナが何をしていようとどう感じていようと、リアナが気にすることはなかった。
 顔を合わせれば会話はするけれど、一緒に遊んだこともほとんどない。もしかしたら、今のがこれまでで一番近い距離にいたと言えるのかもしれない。

(そうね……手を伸ばせば届く、そんな近くにいたことはなかったかも。不思議ね、私たち……双子として生まれながらずっと分かり合えなかった。きっとこれからも……)

 そのままエレナはまんじりともせず夜を明かした。リアナがもう一度やってくるとは思わなかったが、眠気は微塵も感じなかった。

 今日は結婚のための旅立ちの日。一週間の長い馬車旅だ。少しでも眠っておかなければ辛いはずだが寝ることはできなかった。
 明るくなるとエレナは起き上がり、慣れた手つきで一人で身支度を始めた。
 
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