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 エレナとリアナは双子としてこの世に生を受けた。輝く金髪に紫色の瞳のリアナ。対するエレナは鴉のような黒髪に紫色の瞳。その見た目から天使と悪魔のようだと父母はリアナだけを可愛がり、エレナを忌み嫌った。

 リアナはそこにいるだけで人の気持ちを明るくさせる子供だった。誰もがリアナを好きになり、愛さずにはいられない。鳥や蝶までもが彼女の周りに集まってくる。そして彼女が触れると萎れた花でさえ元気を取り戻すのだ。

「きっとこの子の前世は聖女だったに違いない」

 ディアス家の者は皆、リアナを大切に扱った。
 一方のエレナはあまり誰からも構ってもらえなかったせいか、無口で無表情に思われていた。そして彼女が育てようとした花はなぜかいつも途中で枯れてしまう。

「この子の前世は何か悪いことをしていたのではないか」

 そんな風に思われ、使用人すらも彼女を疎ましく思いぞんざいに扱った。
 それでもエレナは捻くれることなく育った。誰からも相手にされない分、たくさん本を読んで知識を高めていったし、世の中には自分よりも辛い思いをしている人々がいることを知り、衣食住に不自由の無い自分が不満を言うなどおこがましいと思っていた。

 それでも。愛を求めてしまう気持ちは抑えられない。何度も縋っては撥ねつけられ、悲しい思いを続けてきた。さすがに思春期を過ぎてしまえばその気持ちに蓋をすることはできるようになったが。
 

 誰かに愛されたい。昨夜、一瞬でもそんな夢を見てしまった自分が惨めだった。家族にとって自分はやはり厄介者。結婚式に参列することすら許されない邪魔者。それならば一刻も早くこの家を出ることが彼らにとって一番いいことなのだろう。エレナは覚悟を決めた。

「わかりました、お父様。お話を進めて下さいませ」

 父は返事の代わりにフンと鼻を鳴らした。それでエレナの話は終わり、その後はリアナの話が延々と続けられた。



 そしてそれからひと月が経った。リアナは毎日お妃教育で忙しい。母は嬉々として衣装や宝石の準備を進めている。父と王宮の話し合いも順調で婚約発表は来月末、結婚式は半年後と決まった。
 父は平行して老男爵との話も進め、エレナはリアナの婚約発表を待たず来月中に辺境へ向かうことになった。二人の誕生日の翌日、十六歳を迎えてすぐにエレナはこの屋敷を去る。一度も顔を合わせていない、五十も年上の男性のもとに。

(どうか、優しい人でありますように。愛してもらえなくても、冷たくされなければそれで……それだけでかまわない)
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