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「……ごめん、ナターシャ」
さっきまでの強気な様子とはうって変わってすまなそうに俯いたキースは、小声で謝ってきた。
「なあに? どうして謝るの」
「彼は君とやり直したいって言うつもりだったんじゃないのかな。勝手に遮ってしまったけど……」
そんな事気にしないで、とナターシャが言おうとするより早く。
「まあ十中八九そうでしょうね。そんな自分勝手な事を言おうものなら、この扇子で頬を打ってやるところだったわ」
扇子を手のひらでピシリと打ちつけながらマリアンヌは冷たい目で言い放った。
「マリアンヌ様、そんな、貴女のお手を煩わせることはいたしませんわ。私がキッチリやっちゃいますから。今さら何言ってるの! って」
ファイティングポーズを取るナターシャを見てマリアンヌは表情を和らげ笑顔になった。
「ふふふ、良かったわ。元気はあるようね」
「はい、お二人のおかげです。スッキリしました」
それは本当の気持ちだった。ホリーが自分を悪く言っていたこと、そしてディーンが疑いもせずにそれを信じて怒りを向けてきたこと。とても辛く悲しいことではあったが、もう終わったことだ。ホリーとディーンを失ったが、今はマリアンヌとキースがいてくれる。
「もしもいつか……またホリーと話せる時が来たら、もっとちゃんと本音をぶつけ合ってみようと思います。そしたら意外と仲良くなれるかも」
「ナターシャは本当にポジティブね。そういう所が好ましいわ。ね、キース」
「うん、ナターシャの前向きなとこ、好きだよ」
「あ、ありがとうございます……!」
二人に好きだと言われてナターシャは舞い上がるような気持ちだった。頬がやたら熱く感じるのはそのせいだろう。
やがて校長がパーティーの開会を宣言し、楽団が演奏を始めた。
「ダンスの時間ね。では私は殿下のところへ戻るわ。後は仲良くね」
優雅な音楽が奏でられ、王太子とマリアンヌのダンスが始まった。
「ナターシャ。踊ろうか」
「ええ。練習の成果を見せなくちゃね」
「来年の僕の卒業パーティーでも君にパートナーになってもらいたいな」
「まあキース。あなた、こんなに素敵なんだからきっとすぐにパートナーは見つかるわよ? 引く手あまたで選ぶのが大変かも。どうしても決まらなかったなら、もちろんパートナーを務めさせていただくわ。今回のお礼にね」
「……そうじゃないんだけどなー」
「え?」
「まあいいや。ゆっくりいこうと決めたんだし。さ、お手をどうぞ、お嬢様」
恭しく差し出された手を取りフロアの中央に歩みを進めながら、他の女性にこの手を取られたくないな……と少しだけ思ってしまったナターシャだった。
さっきまでの強気な様子とはうって変わってすまなそうに俯いたキースは、小声で謝ってきた。
「なあに? どうして謝るの」
「彼は君とやり直したいって言うつもりだったんじゃないのかな。勝手に遮ってしまったけど……」
そんな事気にしないで、とナターシャが言おうとするより早く。
「まあ十中八九そうでしょうね。そんな自分勝手な事を言おうものなら、この扇子で頬を打ってやるところだったわ」
扇子を手のひらでピシリと打ちつけながらマリアンヌは冷たい目で言い放った。
「マリアンヌ様、そんな、貴女のお手を煩わせることはいたしませんわ。私がキッチリやっちゃいますから。今さら何言ってるの! って」
ファイティングポーズを取るナターシャを見てマリアンヌは表情を和らげ笑顔になった。
「ふふふ、良かったわ。元気はあるようね」
「はい、お二人のおかげです。スッキリしました」
それは本当の気持ちだった。ホリーが自分を悪く言っていたこと、そしてディーンが疑いもせずにそれを信じて怒りを向けてきたこと。とても辛く悲しいことではあったが、もう終わったことだ。ホリーとディーンを失ったが、今はマリアンヌとキースがいてくれる。
「もしもいつか……またホリーと話せる時が来たら、もっとちゃんと本音をぶつけ合ってみようと思います。そしたら意外と仲良くなれるかも」
「ナターシャは本当にポジティブね。そういう所が好ましいわ。ね、キース」
「うん、ナターシャの前向きなとこ、好きだよ」
「あ、ありがとうございます……!」
二人に好きだと言われてナターシャは舞い上がるような気持ちだった。頬がやたら熱く感じるのはそのせいだろう。
やがて校長がパーティーの開会を宣言し、楽団が演奏を始めた。
「ダンスの時間ね。では私は殿下のところへ戻るわ。後は仲良くね」
優雅な音楽が奏でられ、王太子とマリアンヌのダンスが始まった。
「ナターシャ。踊ろうか」
「ええ。練習の成果を見せなくちゃね」
「来年の僕の卒業パーティーでも君にパートナーになってもらいたいな」
「まあキース。あなた、こんなに素敵なんだからきっとすぐにパートナーは見つかるわよ? 引く手あまたで選ぶのが大変かも。どうしても決まらなかったなら、もちろんパートナーを務めさせていただくわ。今回のお礼にね」
「……そうじゃないんだけどなー」
「え?」
「まあいいや。ゆっくりいこうと決めたんだし。さ、お手をどうぞ、お嬢様」
恭しく差し出された手を取りフロアの中央に歩みを進めながら、他の女性にこの手を取られたくないな……と少しだけ思ってしまったナターシャだった。
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