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12 (ホリー&ディーン視点)
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(悔しい悔しい悔しい! どうしてマリアンヌはいつもナターシャの味方なの? どうしてあんな素敵な人が急に現れるの? どうして私はいつも貧乏くじを引かされるの……?)
会場の外に走り出たホリーは石畳にヒールを取られ転んでしまった。
「痛……」
ドレスが汚れてしまう。そう思って立ち上がり、屈んで足をさすりながらホリーは涙が溢れてきた。
(今日は新しい私の始まる日だったのに。私の方が上だってナターシャに思い知らせるはずだったのに……)
「ホリー」
後ろから追いかけて来たディーンが声を掛けた。だがホリーは返事をしなかった。
「ホリー。どうして嘘をついたんだ」
それでもまだ顔を見せようとせず、頑なに後ろを向いたままだった。
「ホリー。君があんな嘘をつくから、僕はナターシャを失ってしまった。もしかしたら僕のものになっていたかもしれないのに」
「……それなら、今から奪ってくればいいじゃない」
「そんなこと出来る訳ないじゃないか。公爵家のパートナーが側にいるのに」
(それが一番悔しいのよ。ナターシャとディーンの邪魔をせず素直にパートナーにさせておけば、私があの人のパートナーになれたかもしれなかった)
「君が僕を好きだと言ったのも、嘘だったのか?」
「……」
「婚約指輪を喜んでいたのも、僕の両親に向けた笑顔も」
「……」
「お互いの両親があんなに喜んでいたのに、婚約解消なんて本当はしたくない。君もそうじゃないのか?」
ホリーの両親は、子爵家と縁談がまとまったことをとても喜んでいた。幼い頃から特に褒められるような事もなかったホリーだが、ようやく親を喜ばせることが出来たのは嬉しかった。だからもちろん、ホリーだって婚約解消などはしたくなかった。
「……ええ。そうね」
「だが今夜のことは親の耳にも入るだろう。親は悲しむし、君は嘘つき女、僕は簡単に騙された男として人々に揶揄されることになる。きっとその後の縁談は望めない、二人とも」
そうかもしれない。いや、必ずそうなるだろう。ホリーは母親の泣き顔が浮かんだ。
「だから、僕らは真摯に反省して、やり直していかなければならない。その姿を見せてこそもう一度信頼されるだろう。だから、二人でナターシャに謝りに行こう」
「嫌よ。謝りたくなんてない」
「ホリー。それならば婚約解消しかない」
強く言われてホリーは黙り込んだ。
(婚約解消……それだけは嫌。そうなったらきっと修道院に送られて神に仕えて一生を終わることになる。私はただ、ナターシャより幸せになりたかっただけなのに)
「……わかったわ。謝りに行きます。でも、今はまだ行きたくない。ダンスが終わるまで待って」
「いいだろう。僕もダンスなんてする気分ではない」
ディーンとしては、本当はホリーの顔を見たくもなかった。好意を寄せていたナターシャが実は自分を好きでいてくれたのに、ホリーの嘘のせいで彼女は自分の手の中からすり抜けて行き、公爵令息に見初められてしまった。
これから事あるごとにあの二人の姿を見なければならないのだ。その度に、今日と同じ思いを味わうことになるだろう。
(どうしてナターシャを信じなかったのか。どうしてホリーの言うことをあっさりと信じてしまったのか……自分の愚かさを笑うしかない)
さっきまで、ディーンは幸せだった。大人しく淑やかで自分を一途に好きでいてくれる女性を生涯の伴侶として手に入れたと信じきっていたから。
だが今は、友達もなく信用もない女と人生を共にしなければならないという虚無感しかなかった。
(こんなはずじゃなかった……)
お互いにそう思っている哀れな婚約者達は、窓から漏れ聞こえてくる楽団の音楽を聴きながら立ち尽くしていた。
会場の外に走り出たホリーは石畳にヒールを取られ転んでしまった。
「痛……」
ドレスが汚れてしまう。そう思って立ち上がり、屈んで足をさすりながらホリーは涙が溢れてきた。
(今日は新しい私の始まる日だったのに。私の方が上だってナターシャに思い知らせるはずだったのに……)
「ホリー」
後ろから追いかけて来たディーンが声を掛けた。だがホリーは返事をしなかった。
「ホリー。どうして嘘をついたんだ」
それでもまだ顔を見せようとせず、頑なに後ろを向いたままだった。
「ホリー。君があんな嘘をつくから、僕はナターシャを失ってしまった。もしかしたら僕のものになっていたかもしれないのに」
「……それなら、今から奪ってくればいいじゃない」
「そんなこと出来る訳ないじゃないか。公爵家のパートナーが側にいるのに」
(それが一番悔しいのよ。ナターシャとディーンの邪魔をせず素直にパートナーにさせておけば、私があの人のパートナーになれたかもしれなかった)
「君が僕を好きだと言ったのも、嘘だったのか?」
「……」
「婚約指輪を喜んでいたのも、僕の両親に向けた笑顔も」
「……」
「お互いの両親があんなに喜んでいたのに、婚約解消なんて本当はしたくない。君もそうじゃないのか?」
ホリーの両親は、子爵家と縁談がまとまったことをとても喜んでいた。幼い頃から特に褒められるような事もなかったホリーだが、ようやく親を喜ばせることが出来たのは嬉しかった。だからもちろん、ホリーだって婚約解消などはしたくなかった。
「……ええ。そうね」
「だが今夜のことは親の耳にも入るだろう。親は悲しむし、君は嘘つき女、僕は簡単に騙された男として人々に揶揄されることになる。きっとその後の縁談は望めない、二人とも」
そうかもしれない。いや、必ずそうなるだろう。ホリーは母親の泣き顔が浮かんだ。
「だから、僕らは真摯に反省して、やり直していかなければならない。その姿を見せてこそもう一度信頼されるだろう。だから、二人でナターシャに謝りに行こう」
「嫌よ。謝りたくなんてない」
「ホリー。それならば婚約解消しかない」
強く言われてホリーは黙り込んだ。
(婚約解消……それだけは嫌。そうなったらきっと修道院に送られて神に仕えて一生を終わることになる。私はただ、ナターシャより幸せになりたかっただけなのに)
「……わかったわ。謝りに行きます。でも、今はまだ行きたくない。ダンスが終わるまで待って」
「いいだろう。僕もダンスなんてする気分ではない」
ディーンとしては、本当はホリーの顔を見たくもなかった。好意を寄せていたナターシャが実は自分を好きでいてくれたのに、ホリーの嘘のせいで彼女は自分の手の中からすり抜けて行き、公爵令息に見初められてしまった。
これから事あるごとにあの二人の姿を見なければならないのだ。その度に、今日と同じ思いを味わうことになるだろう。
(どうしてナターシャを信じなかったのか。どうしてホリーの言うことをあっさりと信じてしまったのか……自分の愚かさを笑うしかない)
さっきまで、ディーンは幸せだった。大人しく淑やかで自分を一途に好きでいてくれる女性を生涯の伴侶として手に入れたと信じきっていたから。
だが今は、友達もなく信用もない女と人生を共にしなければならないという虚無感しかなかった。
(こんなはずじゃなかった……)
お互いにそう思っている哀れな婚約者達は、窓から漏れ聞こえてくる楽団の音楽を聴きながら立ち尽くしていた。
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