上 下
7 / 15

7

しおりを挟む
翌日からホリーは学校に出てこなくなった。といっても、それは卒業間近の三年生にはよくあることだ。特に令嬢達はパーティーの準備に余念がない。ドレスの仕上げ、髪型の研究、肌の手入れなどなど、やることは山積みなのだ。クラスの女子も半分くらいは既に来ていない。

「ナターシャ、今日ランチを一緒に取りませんこと?」

「マリアンヌ様! よろしいんですか?」

「ええ。ホリーも来なくなったでしょう。だからあなたをお誘いしても構わないかと思って」

「ありがとうございます! 嬉しいです」

マリアンヌ達上位貴族は、カフェテリアの中でも広くていい席が確保されている。ランチも自分で取る形式ではなく、ちゃんと給仕がいて運んできてくれるのだ。

「ねえナターシャ。前に言っていた気になる方とはその後どうなったのかしら」

いきなり直球で質問された。

「あ……それはですね、失恋しました」

「まあ。見る目のない男性だこと」

「いえ、何か私の方が無神経なことをしていたんだと思うんです。二度と関わらないでくれって言われてしまいました」

「何てこと言うのかしら。私、文句言ってやりますわ」

「そんな、勿体ないですわ。お気持ちだけありがたく受け取っておきます」

「でもそれじゃあ、パートナーはどうするつもりなの?」

「兄に頼みました。嫌がってましたけど」

「そうなの? 見つからなかったら、私の弟を貸そうと思っていたんだけど」

「マリアンヌ様、弟様がいらしたんですか?」

「ええ。兄がいるのは知ってるでしょう?実は弟もいるのよ。本当に可愛い弟なの。あの子には、あなたみたいな子と付き合ってもらいたいのよね」

(まあ! マリアンヌ様にそんなこと言われて嬉しすぎるけれど)

「ありがとうございます。でも公爵家の方をパートナーに貸していただくなんて、もったいないお話ですわ。私なんか兄で充分です」

「そう? 気が変わったらいつでも言って頂戴ね」

マリアンヌは優雅に微笑んでお茶を口にした。

「ところで、ホリーの事なんだけど」

「はい。ホリーが何か?」

「三年間、ほとんど話したこともなかったのに、突然私の屋敷を訪ねてきたのよ。約束も無しでマナー違反ではあるけれど、あの大人しいホリーが来たのだからと会うことにしたんだけれど……」

マリアンヌは静かにティーカップを置いた。

「あなたの悪口を言うのよ。いつも自分をバカにして押さえつけ、喋らせないようにしてきたって。それで、今までクラスの人達とお話出来なかった。でもこれからは、ナターシャではなく自分と仲良くして欲しいと」

ナターシャは唖然として何も言えなかった。ホリーには、自分はそんな風に映っていたのかとショックだったのだ。

「でね。私はこう言ったのよ。『私は自分の付き合う人は自分で決めます。少なくとも、あなたとは仲良くしようとは思いません』とね。そうしたらすぐ帰って行ったわ」

「マリアンヌ様……」

「私はあなたと三年間付き合ってきて、信頼に足る人だとわかっています。だから他人から何か吹き込まれたとしても信用しないわ。そうでしょう?」

「ありがとうございます。本当に嬉しいです……」

涙で目の前のマリアンヌがぼやけて見えない。マリアンヌはそっとナターシャの手を握った。

「ねえナターシャ。あなたにお願いがあるのよ。私はいずれ王宮に召されるわ。その時、私付きの侍女として付いてきてくれないかしら」

「ええっ? 私が、ですか?」

「そうよ。あなたの成績が優秀なのも知っているし、身のこなしもテキパキしていてそつがないわ。仕事が出来て心を許せる人を身近に置いておきたいの。今すぐじゃなくてもいいから返事を聞かせてくれる?」

ナターシャはあまりに突然の話に感激していた。

「はい! 親とも相談して、お返事させていただきます」

と返事をしたが、心の中ではもう承諾することを決めていた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

【完結】勘違いしないでくれ!君は(仮)だから。

山葵
恋愛
「父上が婚約者を決めると言うから、咄嗟にクリスと結婚したい!と言ったんだ。ああ勘違いしないでくれ!君は(仮)だ。(仮)の婚約者だから本気にしないでくれ。学園を卒業するまでには僕は愛する人を見付けるつもりだよ」 そう笑顔で私に言ったのは第5王子のフィリップ様だ。 末っ子なので兄王子4人と姉王女に可愛がられ甘えん坊の駄目王子に育った。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた

宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……

婚約者の初恋を応援するために婚約解消を受け入れました

よーこ
恋愛
侯爵令嬢のアレクシアは婚約者の王太子から婚約の解消を頼まれてしまう。 理由は初恋の相手である男爵令嬢と添い遂げたいから。 それを聞いたアレクシアは、王太子の恋を応援することに。 さて、王太子の初恋は実るのかどうなのか。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

【完結】種馬の分際で愛人を家に連れて来るなんて一体何様なのかしら?

夢見 歩
恋愛
頭を空っぽにしてお読み下さい。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

処理中です...