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紅い龍 1
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各国に送った招待状の返信が届き始めた。
それぞれ、祝意を込めた短い文章を添えてくれていたが、マルシアからの返信は飛び抜けて長かった。
「アイナ宛てで来ているから」
と、レイに渡されたのでアイナが封を開けた。
『親愛なるアイナお姉さま
(勝手にお姉さまなんて呼んでごめんなさい!
でも、アイナ様、では他人行儀過ぎるから、こう呼ばせて下さいな)
お元気でいらっしゃいますか?
この度は、お二人の結婚式にご招待下さってありがとうございます!受け取った瞬間、嬉しくて嬉しくて飛び上がってしまいました。
もちろん、参列させて頂きますわ!
父は、なぜ私にも招待状が届いたのかと不思議な顔をしていましたけれども、
『私とアイナ様はお友達なのです』
とキッパリ言ってやりました。
二か月後のお式が楽しみでたまりませんわ。アイナお姉さまはどんなドレスを着られるのでしょうか。毎日、想像して楽しんでおきますわね!
それではアイナお姉さま、お身体にお気をつけてお過ごし下さい。レイ陛下にもよろしくお伝え下さいませ。
あなたの妹 マルシアより
※追伸 私のことは気軽にマルシア、とお呼びになって下さいね!絶対ですわよ!』
「すごく、感情が溢れ出ている手紙だわ」
「本当にアイナのことを大好きなのが伝わってくるな。私への言葉は、最後の『よろしく』だけだ」
レイは苦笑しながら言った。
若いマルシアからの手紙を、アイナは微笑ましく思った。
(とっても元気で、可愛らしい手紙だわ。私も十六歳の時はあんな風だったのかしら)
その時、ノックの音がしてダグラスが顔を出した。
「陛下、休憩時間は終わりですよ」
「うわ、鬼軍曹が来たっ」
レイの軽口に、ダグラスの片眉がピクっとした。
「嘘、嘘だって。冗談だから」
レイは慌てて立ち上がると、
「じゃあアイナ、またな」
そう言って戻って行き、入れ替わりにマーサが部屋に入って来た。
「アイナ様、今日はドレスの採寸を致しましょう」
「ドレスって、結婚式の?」
「そうです。神殿で式を挙げますのでその時は白いドレスを。その後、披露パーティーでは蒼龍にちなんで青いドレスを着ていただきます」
「ハクは何を着るの?」
「陛下は、式は王としての白い正装で、披露の際は紺色の正装になります」
「アレスの青に合わせるのね。そういえば国旗も青が基調だったわ」
「はい。やはり、アルトゥーラは蒼龍あっての国ですから」
「アレスとアルトゥーラの始まりは、歴史で教えてもらったわね」
――――――――――――――
遠い昔、ガイアス王あり。偉大なる魔力を持ち、賢く、武に優れた人物なり。
大陸に小国乱立し、世は乱れり。
ある時、キリア山にてガイアス王、蒼龍と邂逅せり。
偉大なる魔力にて蒼龍に力を与え、蒼龍、頭を垂れて忠誠を誓う。
水を操りし蒼龍の力を得、ガイアス王、諸国を統一せん。
ここに偉大なるアルトゥーラ王国建ち、ガイアス王、始祖として立たん。
蒼龍、地を平らかにし水をたたえさせ、アルトゥーラを緑豊かな国にせんとす。
ガイアス王、喜び、永遠の誓いを立てん。
――――――――――――――
「王の魔力があったからアレスに力が満ちた。そしてアレスの力があったから王は諸国を統一できた。そういうことよね」
「はい。魔力を持つ王は他国にもいらっしゃいますが、龍の加護を持つのは我がアルトゥーラの王だけ。ですから、レイ陛下はこの世で唯一無二の存在なのです」
「早くお世継ぎをもうけるため、王は十五歳で婚約者を決め、十八歳で結婚するしきたりだと聞いたわ。でもハクの場合は……」
「あの事件で五年間姿を消されていましたからね。もう既に二十二歳。アイナ様には、是非とも頑張っていただかなくては」
それを聞いてアイナは、今更ながら自分の立場の大きさに震えた。
(もしも、子供が出来なかったらどうなるんだろう。
その時は……?)
それぞれ、祝意を込めた短い文章を添えてくれていたが、マルシアからの返信は飛び抜けて長かった。
「アイナ宛てで来ているから」
と、レイに渡されたのでアイナが封を開けた。
『親愛なるアイナお姉さま
(勝手にお姉さまなんて呼んでごめんなさい!
でも、アイナ様、では他人行儀過ぎるから、こう呼ばせて下さいな)
お元気でいらっしゃいますか?
この度は、お二人の結婚式にご招待下さってありがとうございます!受け取った瞬間、嬉しくて嬉しくて飛び上がってしまいました。
もちろん、参列させて頂きますわ!
父は、なぜ私にも招待状が届いたのかと不思議な顔をしていましたけれども、
『私とアイナ様はお友達なのです』
とキッパリ言ってやりました。
二か月後のお式が楽しみでたまりませんわ。アイナお姉さまはどんなドレスを着られるのでしょうか。毎日、想像して楽しんでおきますわね!
それではアイナお姉さま、お身体にお気をつけてお過ごし下さい。レイ陛下にもよろしくお伝え下さいませ。
あなたの妹 マルシアより
※追伸 私のことは気軽にマルシア、とお呼びになって下さいね!絶対ですわよ!』
「すごく、感情が溢れ出ている手紙だわ」
「本当にアイナのことを大好きなのが伝わってくるな。私への言葉は、最後の『よろしく』だけだ」
レイは苦笑しながら言った。
若いマルシアからの手紙を、アイナは微笑ましく思った。
(とっても元気で、可愛らしい手紙だわ。私も十六歳の時はあんな風だったのかしら)
その時、ノックの音がしてダグラスが顔を出した。
「陛下、休憩時間は終わりですよ」
「うわ、鬼軍曹が来たっ」
レイの軽口に、ダグラスの片眉がピクっとした。
「嘘、嘘だって。冗談だから」
レイは慌てて立ち上がると、
「じゃあアイナ、またな」
そう言って戻って行き、入れ替わりにマーサが部屋に入って来た。
「アイナ様、今日はドレスの採寸を致しましょう」
「ドレスって、結婚式の?」
「そうです。神殿で式を挙げますのでその時は白いドレスを。その後、披露パーティーでは蒼龍にちなんで青いドレスを着ていただきます」
「ハクは何を着るの?」
「陛下は、式は王としての白い正装で、披露の際は紺色の正装になります」
「アレスの青に合わせるのね。そういえば国旗も青が基調だったわ」
「はい。やはり、アルトゥーラは蒼龍あっての国ですから」
「アレスとアルトゥーラの始まりは、歴史で教えてもらったわね」
――――――――――――――
遠い昔、ガイアス王あり。偉大なる魔力を持ち、賢く、武に優れた人物なり。
大陸に小国乱立し、世は乱れり。
ある時、キリア山にてガイアス王、蒼龍と邂逅せり。
偉大なる魔力にて蒼龍に力を与え、蒼龍、頭を垂れて忠誠を誓う。
水を操りし蒼龍の力を得、ガイアス王、諸国を統一せん。
ここに偉大なるアルトゥーラ王国建ち、ガイアス王、始祖として立たん。
蒼龍、地を平らかにし水をたたえさせ、アルトゥーラを緑豊かな国にせんとす。
ガイアス王、喜び、永遠の誓いを立てん。
――――――――――――――
「王の魔力があったからアレスに力が満ちた。そしてアレスの力があったから王は諸国を統一できた。そういうことよね」
「はい。魔力を持つ王は他国にもいらっしゃいますが、龍の加護を持つのは我がアルトゥーラの王だけ。ですから、レイ陛下はこの世で唯一無二の存在なのです」
「早くお世継ぎをもうけるため、王は十五歳で婚約者を決め、十八歳で結婚するしきたりだと聞いたわ。でもハクの場合は……」
「あの事件で五年間姿を消されていましたからね。もう既に二十二歳。アイナ様には、是非とも頑張っていただかなくては」
それを聞いてアイナは、今更ながら自分の立場の大きさに震えた。
(もしも、子供が出来なかったらどうなるんだろう。
その時は……?)
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