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戴冠の儀
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ダグラスに呼ばれた神官ゼフィールは、慌てて祭礼用の衣服を着て現れ、神殿に火を灯して回った。
「花飾りも、供え物もありませぬ……」
「そんな物は必要ない。それに、アレスとの契約の儀式はもう済ませてある」
「なっ、なんですと? どこで済ませてしまわれたんですか? 儀式は神殿でと決まっておりまするに」
「しょうがないだろう。魔力が発現したのが草原だったんだし」
レイはふと草原で別れた鳶色の髪の少女のことを思い出したが、すぐに話に戻った。
「だから、後はお前に宣言してもらって書類にサインするだけだ。王冠を頭に被せるパフォーマンスも必要ないからな」
「そんな。レイ殿下の戴冠式は歴代王の中でも一番立派で豪奢なものにしたかったですのに……」
「それはお前の見栄のためだろう。いいから早く」
ぶつくさ言いながらゼフィールは祭壇の前に立った。祭壇には、アレスの龍の姿を模した像が飾られている。そしてゼフィールの後ろにレイとアレスは並んでひざまづいた。
「自分の像に祈るアレスとはなかなかシュールな画だな」
レイは隣に座っているアレスにコソコソと耳打ちした。
「はい……私も気恥ずかしいのですが、儀式化した方が威厳が出ると五百年前の王が決めたものですから」
ゼフィールがコホンと咳払いをして杖の先で地面を二回叩き、高らかに声をあげた。
「龍の御前にて我等は宣言する。ここにいるロスラーン・レイ・アシュランは蒼龍アレストロンと契約を結びアルトゥーラ王国の神聖なる王の地位を継承したことを!」
(ああ……我が一世一代の晴れの舞台よ……本来ならたくさんの閣僚・貴族・他国のトップ達が出席して、華やかな儀式になる筈だったのに…… )
「ゼフィール。心の声が口から出てるぞ」
「お、おっと、申し訳ございませぬ。ではこちらに、サインをばよろしくお願いいたします」
サラサラとサインを済ませ、ここにロスラーン・レイ王子は第二十代アルトゥーラ王となった。
「よし、終わった。ダグラス、行くぞ」
「はい。レイ陛下」
「む、……なんだかこそばゆいな。しかも、お前が私に敬語を使うとは」
「立場はわきまえておりますから。もうあなたは幼馴染みのレイ殿下ではなくなりました。この国の、大切な王なのです」
(うーん、ちょっと寂しいが……慣れるしかないな)
「よし、執務室で話をしよう」
神殿を後にした三人が執務室へ入ろうとした時、たくさんの侍女や護衛兵士達が集まってきた。
「陛下! ご即位おめでとうございます!!」
そしてその中から、レイの乳母であり王宮の侍女頭を勤めるマーサが飛び出してきた。
「レイ陛下! よくぞ、よくぞご無事でいらっしゃいました……」
「マーサ! 帰ってきたぞ」
両腕で抱きしめると、マーサはさらに号泣した。
「マーサ、つもる話もあるのだが、今はダグラスと話を詰めなければならん。何か、軽く食べられる物を作ってくれないか」
「承知致しました。すぐに持って参ります」
マーサは泣きはらした赤い目ではあるが、すぐに仕事モードに切り替わり、台所へと走って行った。
執務室のソファに三人は向かい合って座った。
「こんな柔らかいソファ久しぶりだな」
レイは軽くお尻を弾ませて柔らかさを確認してみた。
「一体、どこでどんな暮らしをしていたんですか?忽然と姿を消してしまって」
「うむ。父の力なのだ」
「ゼン王の?」
「そうだ。父は魔力の大きさは歴代の王の中でも劣っていたのは知っているだろう?だが、魔力を利用して物の形を変えることには優れていた」
「そうだったんですか?? まったく存じ上げませんでした」
「誰にも見せていなかったからな。物の形が変えられても、アレスに与える魔力が弱いことは変わらん。意味のない力だと思っていたようだ」
「物の形を変える、というのは具体的にはどういう?」
「例えば、だ」
レイはソファに置いてあるクッションを手に取って、呪文を唱えた。すると、クッションは犬のぬいぐるみに変わったのだ。
「ええっ? こんなことが出来るんですね」
「ああ。父は私に呪文を教えてくれた。魔力が発現したらやってみるといい、と」
「ではまさか、さっき犬だったと言っていたのは……」
「そうだ。父が最期の力で、私を犬の姿に変えたんだ。しかも、王宮の外にまで瞬間移動させて」
「そうだったんですか。犬になっていたならば、いくら捜索しても見つからないわけですね。……それにしても、大胆な賭けでしたね。もしかしたら野犬に噛まれて死んでしまう可能性もあったでしょう」
「ああ。だが幸い、優しい人に拾われて、ずっと大切にされていた」
この台詞を聞きながらアレスは微笑んでいた。
「それは本当に良かった。アルトゥーラの大恩人ですね、その方は」
「そうだな」
レイも、遠くを見るような顔をして微笑んだ。
その時、ノックの音がして、マーサが夜食を持って入ってきた。
「さあさあ、まずは腹ごしらえをなさって下さいませ。大事なお話はそれからですよ」
「そうだな。ダグラス、お前も一緒に食べよう」
「はい。懐かしいですね、マーサの手作りパン」
「まだまだありますからね。たくさん召し上がって下さい」
その夜は、ずっと今後の国の立て直しを話し合い、なんとか方向性が決まった時には夜が明けていた。
「花飾りも、供え物もありませぬ……」
「そんな物は必要ない。それに、アレスとの契約の儀式はもう済ませてある」
「なっ、なんですと? どこで済ませてしまわれたんですか? 儀式は神殿でと決まっておりまするに」
「しょうがないだろう。魔力が発現したのが草原だったんだし」
レイはふと草原で別れた鳶色の髪の少女のことを思い出したが、すぐに話に戻った。
「だから、後はお前に宣言してもらって書類にサインするだけだ。王冠を頭に被せるパフォーマンスも必要ないからな」
「そんな。レイ殿下の戴冠式は歴代王の中でも一番立派で豪奢なものにしたかったですのに……」
「それはお前の見栄のためだろう。いいから早く」
ぶつくさ言いながらゼフィールは祭壇の前に立った。祭壇には、アレスの龍の姿を模した像が飾られている。そしてゼフィールの後ろにレイとアレスは並んでひざまづいた。
「自分の像に祈るアレスとはなかなかシュールな画だな」
レイは隣に座っているアレスにコソコソと耳打ちした。
「はい……私も気恥ずかしいのですが、儀式化した方が威厳が出ると五百年前の王が決めたものですから」
ゼフィールがコホンと咳払いをして杖の先で地面を二回叩き、高らかに声をあげた。
「龍の御前にて我等は宣言する。ここにいるロスラーン・レイ・アシュランは蒼龍アレストロンと契約を結びアルトゥーラ王国の神聖なる王の地位を継承したことを!」
(ああ……我が一世一代の晴れの舞台よ……本来ならたくさんの閣僚・貴族・他国のトップ達が出席して、華やかな儀式になる筈だったのに…… )
「ゼフィール。心の声が口から出てるぞ」
「お、おっと、申し訳ございませぬ。ではこちらに、サインをばよろしくお願いいたします」
サラサラとサインを済ませ、ここにロスラーン・レイ王子は第二十代アルトゥーラ王となった。
「よし、終わった。ダグラス、行くぞ」
「はい。レイ陛下」
「む、……なんだかこそばゆいな。しかも、お前が私に敬語を使うとは」
「立場はわきまえておりますから。もうあなたは幼馴染みのレイ殿下ではなくなりました。この国の、大切な王なのです」
(うーん、ちょっと寂しいが……慣れるしかないな)
「よし、執務室で話をしよう」
神殿を後にした三人が執務室へ入ろうとした時、たくさんの侍女や護衛兵士達が集まってきた。
「陛下! ご即位おめでとうございます!!」
そしてその中から、レイの乳母であり王宮の侍女頭を勤めるマーサが飛び出してきた。
「レイ陛下! よくぞ、よくぞご無事でいらっしゃいました……」
「マーサ! 帰ってきたぞ」
両腕で抱きしめると、マーサはさらに号泣した。
「マーサ、つもる話もあるのだが、今はダグラスと話を詰めなければならん。何か、軽く食べられる物を作ってくれないか」
「承知致しました。すぐに持って参ります」
マーサは泣きはらした赤い目ではあるが、すぐに仕事モードに切り替わり、台所へと走って行った。
執務室のソファに三人は向かい合って座った。
「こんな柔らかいソファ久しぶりだな」
レイは軽くお尻を弾ませて柔らかさを確認してみた。
「一体、どこでどんな暮らしをしていたんですか?忽然と姿を消してしまって」
「うむ。父の力なのだ」
「ゼン王の?」
「そうだ。父は魔力の大きさは歴代の王の中でも劣っていたのは知っているだろう?だが、魔力を利用して物の形を変えることには優れていた」
「そうだったんですか?? まったく存じ上げませんでした」
「誰にも見せていなかったからな。物の形が変えられても、アレスに与える魔力が弱いことは変わらん。意味のない力だと思っていたようだ」
「物の形を変える、というのは具体的にはどういう?」
「例えば、だ」
レイはソファに置いてあるクッションを手に取って、呪文を唱えた。すると、クッションは犬のぬいぐるみに変わったのだ。
「ええっ? こんなことが出来るんですね」
「ああ。父は私に呪文を教えてくれた。魔力が発現したらやってみるといい、と」
「ではまさか、さっき犬だったと言っていたのは……」
「そうだ。父が最期の力で、私を犬の姿に変えたんだ。しかも、王宮の外にまで瞬間移動させて」
「そうだったんですか。犬になっていたならば、いくら捜索しても見つからないわけですね。……それにしても、大胆な賭けでしたね。もしかしたら野犬に噛まれて死んでしまう可能性もあったでしょう」
「ああ。だが幸い、優しい人に拾われて、ずっと大切にされていた」
この台詞を聞きながらアレスは微笑んでいた。
「それは本当に良かった。アルトゥーラの大恩人ですね、その方は」
「そうだな」
レイも、遠くを見るような顔をして微笑んだ。
その時、ノックの音がして、マーサが夜食を持って入ってきた。
「さあさあ、まずは腹ごしらえをなさって下さいませ。大事なお話はそれからですよ」
「そうだな。ダグラス、お前も一緒に食べよう」
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