表裏一体~Double Joker~

美月葉

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19.伝達

19.伝達

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スタジオの地下駐車場に純鋭は車を駐車させた。

静かな駐車場…

メンバーの駐車スペースが4台分空いている。

「…俺のせいで巻き込んだ…か…。」

駐車スペースを見ながら純鋭は少し後悔していた。

大きく胸で息を吸い込み吐いた。

タイヤが地面をする音が聞こえた。

純鋭の車と並行にSUV車が止まる。

「駐車場で話し合いするつもりはないぞ。」

「麗…」

麗と呼ばれた男は車の窓から純鋭を見下ろしていた。

エンジンを切って車から出てきた。

名前のごとくきれいな顔立ちにあまり事が起きても動じない大人な出で立ち。

珍しく純鋭が嫉妬する人物だった。

「いないのは変わりない。こんなところに居ても戻ってくるわけじゃないんだ。上行くぞ。」

麗は純鋭の背中を優しくたたき、スタジオに行くよう促した。

二人きりのエレベーター内に静寂が漂う。

「…お前…直接見たんだって?」

「…」

純鋭は子供のように黙って頷いた。

「そうか。よく今日これたな。もっと心が繊細かと思っていたよ。スタッフから聞いたが、残虐な殺され方だったんだろ?俺らに嫉みや恨みがあったとしても、普通は人間の一部分を解体して食わせない。どこか頭のねじがない奴の愉快犯ってことだろ?しかもまだ犯人もわかっていない。そんな中、俺だったらショックと怖さで来れない。」

淡々と話す麗に、「お前も怖くても来てるじゃねーか」と頭の中で突っ込んだ。

もちろんこれが麗なりの気遣いだと純鋭は気づいていた。

「…なんで殺されるほどに恨まれたんだろうか…」

麗が言った言葉に純鋭は苦しくなった。

麗が自分を横目で見つめる瞳が痛かった。

「…エレベーター…扉締まるぞ。」

鼓動の音が純鋭に焦燥感を募らせた。

部屋までまた沈黙が続いた。

麗が部屋の扉を開けた。

「松平さん。どうも御無沙汰しています。」

(松平…?)

純鋭は顔を上げ松平と呼ばれた男の顔を見た。

















特安本部

屡鬼阿の部屋に誰かが入ってきた。

「調子はどうです?屡鬼阿さん。」

屡鬼阿は首を横に向け入ってきた人の顔を確認した。

「清晴さん。治していただいてありがとうございます。」

清晴は屡鬼阿の吸い込まれそうな赤茶色の目に少し戸惑いながらも笑顔を作った。

その隣でスティーブとリズが屡鬼阿を見つめていた。

屡鬼阿は痛む体を我慢しながら上半身を起こした。

その様子に清晴は目を丸くした。

「その二人は漆黒の翼の人ね。改めて挨拶するわ。私は遮那屡鬼阿。初対面の時は失態を見せてごめんなさい。」

屡鬼阿は赤茶色の髪の毛を靡かせた。

「その姿とこの前の姿。あなたはどちらが本物ですか?」

スティーブは眉間にしわを寄せながら少し屡鬼阿を警戒した。

「さぁどちらも本物じゃないかしら。」

屡鬼阿は表情を変えないものの嘲笑するようにスティーブに向けて言い放った。

スティーブはその表情をどっこかで見たデジャブを感じた。

「まるでジキルとハイドね…」

リズはスティーブに対する屡鬼阿を不快に思い、言いかえした。

「解離性同一障害っていいたいのかしら?なんとでも言えばいいわ。」

屡鬼阿はベッドから足をおろし、立ち上がった。

「まだ安静にっ…!」

清晴が言葉を言う前に屡鬼阿は駆けていた上着のポケットから真っ二つに割れたバレッタを取り出し、今回壊れた髪飾りの隣に並べて置いた。

「着替えるから出て行ってくれる?」

その冷たい目に清晴たちは恐怖した。

「ば、化け物!」

その恐怖からリズは屡鬼阿に向かって一言吐き捨て、いち早く屡鬼阿の部屋を出て行った。

それを追うようにスティーブも屡鬼阿の部屋から出て行った。

「化け物…か。」

「屡鬼阿…さん…。」

「いいの。清晴さん。彼女は間違ってない。清晴さんも私着替えるから行って…」

清晴は屡鬼阿の悲しそうな声に後ろ髪をひかれながらも部屋の扉を閉めた。

「今日はやけに鳥がうるさい…。」




「リズ!今のは言いすぎだ。君はこの組織に居すぎてしまって、見るもの全てが化け物に見えてしまっているんだ。偏見をとらないといけないよ。」

「スティーブ。あなただっておかしいと思うでしょ?短期間で風貌が変わってしまう人間なんて私は見たことない。それにあんな酷い怪我だった人がリハビリもしないで一週間で歩けるなんておかしい!」

リズは少しパニックを起こしながらも屡鬼阿を否定していた。

「スティーブ!彼女はJokerかもしれないのよ!今すぐ殺した方がいいわ!」

清晴はその声に驚いたが、彼女の頬をたたき制したスティーブの姿を見て安堵した。

「根拠が何もそろっていないのに人を罰する愚民に成り下がるのはこの組織では許しませんよ。」

リズは涙を浮かべながら踵を返し、自分の部屋へと戻った。

「お恥ずかしいところ見られてしまいましたね清晴さん。」

スティーブは眉を曲げながらも笑顔を作った。

「いや、スティーブさんが制さなければ皆さんを特安から追い出すところでした。」

「ははは。手厳しいな。でも彼女が言っていることもわからないわけではないんですよ。根拠がないだけで屡鬼阿さんがJokerという可能性だって大いにある。でもね僕たちは疑っても、根拠がないうちは処分はしないことにしているんです。一度大きな過ちを犯していますから…それはもう二度とないようにしたい…。」

「大きな過ち?」

「ま、後々話しますよ。…屡鬼阿さんがJokerだった場合ですが…。」










純鋭は打ち合わせが終わり、真夜中、人気のない灯台のある高台に来ていた。

「前にみんなでここで撮影したんだ。最高だったんだがな。な。マネジャー。」

純鋭は一本の葉が生い茂っている気に向かって語りかけた。

枝の陰から女性の顔が暗闇に浮かび上がる。

「ごめんね…ごめんね…」

女性の視点はいつまでたっても純鋭に定まらなかった。

「失踪した後…なんて姿になってんだよ。」

「…あなたが来たから。ごはん食べ損ねちゃった。」

木の脇にドサッと重たいものが落ちた。

「また…一人殺したのかよ…」

糸が切れたマリオネットのようにおぞましい表情の中年サラリーマンが木の横に崩れていた。

「あの時もあなたが来たから中途半端になっちゃったのよ。おかげでこんなダサくなっちゃった。」

マネジャーと言われた女性は木から降り、純鋭の前に全貌を表した。

上半身はマネジャーそのものだったが腹部から下は大型の鳥の恰好だった。

「もっとちゃんとやってれば、こんな脅されたり、こんな罰を受けなかったのに。」

女は涙を流した。

「脅された?罰。何を知っているんだ?誰の命令でこんなことをしてるんだ?」

女はピタッと泣き止み高笑いをした。

「もうおしまい!あなたもここで真実を見ることなくくたばれバいいのよ!」

女は一度天に向かって飛び立ち、加速をつけて純鋭めがけて鋭い爪を振りかざした。

純鋭は咄嗟に腕で払い、爪あとを受けた。

三本の筋のような傷から鮮血が滴る。

「その刀抜かないと死んじゃうよ。」

純鋭は刀を抜くのを躊躇っていた。

上半身は今まで知っているマネジャーそのものだ。

バンドの全員のスケジュールを管理し、一緒に世界の頂点まで登りつめ達成した喜びもそこまでの辛い道のりも一緒に分かち合ってきた仲間…表にいた人間が裏に…それも人とは言えない姿になって踏み込んでしまっている…。

「くそっ…」

純鋭は自分のせいで表の人々を巻き込んでしまった自分に腹が立った。

「あら、抜くの?ま、抜いてもそんな棒切れで私にあてられるかしら?」

マネジャーは大地を蹴り上げ宙に舞った。

「上からの攻撃かよ。」

純鋭は刀を抜いてマネジャーが自分に向かってくるタイミングを予測して横に振りかざしたが、刀は虚しく空を切った。

「馬鹿ねェほんとに。」

その声と同時に純鋭の背中に激痛が走った。

純鋭は急いで振り向き、刀を構えたがすでにマネジャーは上空に距離をとっていた。

「遅い。遅いわねェ。ふふ」

マネジャーは木に宿り、爪についた純鋭の血液を啜った。

「あーお腹すいたわ。弄んだ後に食べてアげルからね。」

純鋭は目にかかる前髪を掻き上げた。大き目のピアスが手にあたった。

「!」

純鋭は向かってくるマネジャーに刀を投げたがマネジャーの顔を掠り、再び虚しく向こうの木に突き刺さった。

「あはははは。武器を捨ててどうするのよ。食べられる覚悟ができたのかしら?」

「食べられるのはやだなぁ。」

マネジャーはジリジリと純鋭を追い詰めていく。

純鋭は刀を取りに行こうと大木に近づいて行った。

それに気づいたマネジャーは純鋭を鋭い脚で、大木に押さえつけた。

「ざんねーん。もう刀を捨てておとなしく食べられるのはどう?」

「お生憎様、俺にそんな趣味はないんだよ!」

純鋭は目一杯の力でマネジャーの目に向かって腕を振りかざした。

「いっやああああああああああ」

マネジャーは目を押さえて後退りした。

「下品な叫びだな。さっきまで人間の上半身だったがそこにももう羽毛生えてきてるじゃねーか。」

純鋭は握っていたピアスを地面に捨て、大木に刺さっている刀を抜いた。

「おのれ!おのれおのれおのれおののののののお」

純鋭の刀はマネジャーの左胸をついた。

「ピヨピヨうるせぇよ。」

マネジャーの口からどす黒い血液が吐瀉される。

マネジャーは純鋭を見て一筋の涙を流した。

「あんたをそんな姿に変えたのは誰だよ…。」

マネジャーは少し笑った。

「私だよ。私が私を変えたかったの…。変えるきっかけをくれた人はいるけどね…。私はカニバリズムを愛してた。私にとっても生きがいだったのよ…でもあの三人は違った。…海外遠征に行くたび禁断のものに手を染める…そんな光景を目にしておきながら止めれなかった私が悔しかった…。でもね、止めないとってずっと思っていた…そんな私の気持ちと裏腹に、彼らは日本でもそれに手を染めたの…警察も彼らに目を付け始めてたから…だからある人に勇気をもらって止めた。」

「止めたっ、殺したら何の意味もないだろ。」

マネジャーはゆっくりと首を横に振り膝をついた。

「カニバリズムが今までの功績が崩れて終わるよりも、栄華・頂点として君臨したまま終わった方がいいじゃない。表に悪い印象が広まって消滅するよりも、悲劇の伝説バンドとして語り継がれる方が…」

マネジャーは純鋭に微笑んだ。

「ある人って…誰だ?」

「それ言ったら私が自分を犠牲に二人を守った意味がなくなるじゃない。」

マネジャーは純鋭が刺した刀に手をかけた。

「誰とは言えないけど、その人が言ってたわ…もし私が追い詰められて死ぬのであればこういえって…『Dear Rukia』どういう意味か分からないけどね。」

その言葉に純鋭は目を見開いた。

マネジャーは純鋭の刀を自分でもう一度深く刺した後、思い切り引き抜き絶命した。




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