表裏一体~Double Joker~

美月葉

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18.next door

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「こんな時に、特安のメンバーがほとんどいないって、どういうことです?日本の組織の教育を疑います。」

スティーブは少しイライラした様子で片足を揺すっていた。

キルは今日もその様子を見ながら、肉を頬張った。

「JUNの行き先はいいとして、屡鬼阿さんです!なぜあの人は自分が保護の対象下にあるのに単独行動をするのですか?」

スティーブは清晴とキルにやつあたった。

「血のにおいがする…もうすぐ帰ってくるさ。ご馳走様。日本のごはんうまかった。…自分も家出して月日経つから…家戻ります。」

キルは緑の目を吊り上げて窓から出て行った。

「あー、もう!」

更に統率がとれない自分にスティーブはイライラした。

「なに荒れてるんだよ。お前らしくもない。」

部屋にいた全員が声のする扉の方向に顔を向けた。

「JUN…?」

いつもとは違うラフな格好で純鋭は布にくるまっている大きな荷物を両腕で抱えていた。

「清晴がここにいて助かった…。」

純鋭は少し悲しそうな表情をして布の片側を捲った。


『!?』

その場にいたリズが小さな悲鳴を上げた。

「屡…屡鬼阿さん?」

そう…屡鬼阿だった。

しかし、手足は本来曲がってはいけない方向に手足の指先が向いており、首も純鋭が支えていない状態では自力で据わらず、右肩には長い木の枝が刺さっていた。

顔色は褐色がなく、呼吸をするたヒューヒューと空気が抜けていく音が聞こえた。

「体温も日に日に下がってきているんだ。清晴…何とかなるか?」

清晴は難しい表情をしたまま(手術室はないため)作業室へ純鋭へ屡鬼阿を抱えたまま運ぶよう促した。

急いでガウンを着てマスクをつける…。

清晴のメスを握る手が小刻みに震えていた。

「…助けられるか一か八ですよ?この状態…助かっても脊髄損傷とか脳の障害などの後遺症の可能性は高確率でありますからね。」

清晴はそういうものの震えた手でメスを屡鬼阿に入れられないままだった。

「清晴?」

「すみません。純鋭さん…席を外してください。一人でやります。」

純鋭は清晴の顔を見た。

「大丈夫か?」

「ええ…」

純鋭は少し不安になりながらも作業室を出た。


清晴による手術は長時間にわたり何時間も続いた…






作業室から、汗だくになりながら体力を消耗している清晴が廊下のベンチにうなだれた。

明るかった窓の外が真っ暗になっていた。

清晴の深呼吸に同じく廊下のベンチで待ち疲れて眠っていた純鋭が目を覚ました。

「…大丈夫か。汗だくで顔色悪いぞ。」

純鋭はくたくたに疲れている清晴に声をかけた。

「生きている人の手術は精神的に疲れますね。…」

不安のような安堵のような不思議な笑顔で清晴は答えた。

「…とりあえず脈拍も血液量も安定しました。今は酸素ボンベを使っていますが、自力呼吸も時期に安定するでしょう。…正直、あの出血量で、輸血なしで手術を乗り越えた屡鬼阿さんを助けられるとは思っていませんでした……頭部と肩からの出血、後頭部・前腕・上腕・腰部・頚部・大腿骨等の全身骨折…まるで飛び降りたり、突き落とされた人のような高いところから落ちた時の負傷と同じでした…その…なんというか普通なら…死んでいます…。それも即死で…。」

純鋭は何かを考えるようなそぶりをした。

「…何があったんですか?…」

清晴は純鋭の顔を見た。

「…俺もよくわからないが、ありのままを話すと…、俺は実家の剣術道場で親からまだ教わっていなかったことを学んで戻ってきた。その帰り、ワイドショーで最近よく取り上げられている、女子大生の連続行方不明を解明し、とある山へ行ったんだ。…そこの麓の地面に…血だまりの中、屡鬼阿が倒れていた…。落ちた格好で…一瞬死んでいると思ったよ…。弱いが脈もまだうっていた…救急車を呼ぼうともしたが、近くにいたんだよ…。」

「いた?…」

純鋭は顔をしかめた。

「右半身が人間・左半身が変化の途中なのか、この世のものとは思えない姿のやつが…大木に括り付けられ息絶えていた…。」

「息絶えて?」

「…ああ。屡鬼阿だとしても、こんな瀕死の状態で戦えるはずがない…誰かがやつを殺したってことだ…。この建物にいるやつ以外の人物が…。」

「!?」

「ここにいない者であの存在を知っているのは里京さんだけだが、屡鬼阿との初対面でたじろいだ人だ。あれを始末はできないと思う。そもそも里京さんなら銃を使う。…あれは何か…殴り殺したような死体だった。」

「そう…ですか…。」

純鋭たちの会話を、壁に隠れながらスティーブ聞き耳を立てていた。














静かな部屋

窓から差し込む淡い光

囀る鳥の声

体の節々が痛い

頭が割れるように痛い。

そう思いながら屡鬼阿は目を開けた。

体を起こしたいが痛くて体が動かない。

「目、覚ましたか。」

扉の方向から純鋭の声が聞こえた。

「生きてたのね…私。」

屡鬼阿は自分の今の姿を確認することができないまま天井の一点を見つめながら呟いた。


「清晴に感謝しろよ。一人でお前を手術して、瀕死状態から蘇生してくれたんだからな。」

目に優しくないオレンジの髪の毛が、屡鬼阿の視界の脇で見え隠れした。

「もちろんここまで運んだ俺にも、感謝しろよな。」

屡鬼阿は純鋭がドヤ顔した表情をまともに見れない自分に少し安堵した。

「首は動かせないけど、まともにうざったい姿みなくて済むのはいいわね。」

屡鬼阿は辛うじて動かせる左手で自分の後頭部を触った。

「髪飾り…」

純鋭はぐしゃぐしゃに壊れた屡鬼阿が新しくつけていた髪飾りを手渡した。

純鋭が触れた屡鬼阿の手は冷たかった。

「よく、あの状態で息を吹き返したな。」

屡鬼阿は手をしばらく退けなかった純鋭の手を優しく払った。

「この丈夫すぎる身体も考えものよね…。あのまま死ねばよかったのに…。」

屡鬼阿は自分のしぶとさに嘲笑した。

「屡鬼阿…」

屡鬼阿は天井への目線を変えずに呟いた。

純鋭は屡鬼阿の虚無の感情をヒシヒシと感じた。

「…お前にはいろいろ聞きたいことがあるんだが…悪い。俺今から、スタジオ行かないと…。カニバの唯一残ってたメンバーと今後の話しなくちゃいけないから…。安静に…な。」

純鋭は名残惜しそうに屡鬼阿のベッドの脇に立った。

屡鬼阿の視界にやっとまともな純鋭がうつる…。

自分を哀れむような目…

屡鬼阿は屈辱に似た感情に眉をひそめた。

「…みんな心配してたぞ。もう一人で居なくなるなよ。」

純鋭は屡鬼阿に背を向け部屋から出て行った。

「心配か…」

屡鬼阿はどこかその言葉を心から信用できなかった。
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