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17.転落
17.転落
しおりを挟む「もとに…戻るって…?」
屡鬼阿は自室の姿見を見つめながら黒く光る髪の毛をつかんだ。
姿見に映る自分はどこか違和感がある…。
しかし今はこれが自分なのだ。
『…大学に通う女性がまた行方不明です。……今月に入りこれで12件目となります。…犯人は未だ捕まっておらず、警察は……に注意するよう呼びかけています。』
テレビから流れる連日の女子大学生の行方不明事件。
屡鬼阿はその内容がとても気になっていた。
資料庫に向かい独自に女子大生の消息が途絶えた場所を手掛かりに憶測を立てた。
屡鬼阿はメモした紙をポケットにしまい、そのまま本部から出て行った。
「あーあ…。」
窓から屡鬼阿の背中を見つめながら、キルは生肉を口に運んだ。
「あれ、屡鬼阿さんとは一緒じゃなかったんですか?」
スティーブはキルと屡鬼阿が同室にいると思い部屋のドアを開けた。
「知らないよ。…肉食う?」
「け、結構です。この職業柄、肉が食べれなくなってしまって…そもそも何の肉ですか?」
「…」
キルはスティーブの問いを無視して口に肉片を運んだ。
スティーブはそのままキルが食事をしている机の向かいの席に座った。
「……キルさん。あなたは一体何者ですか?」
キルは口に運ぼうとした肉片を途中で止めた。
「…被害者。」
そういうと再び肉片を口に含んだ。
「被害者?」
スティーブは眉を歪ませた。
「そ。被害者。Joker…いることで家族と引き離された。」
「家族構成を聞いてもいいかい?」
キルは無造作に肉にフォークを突き刺し、改めてスティーブの目を見つめた。
「父と母、あと姉。でも姉の顔は知らない。父親が違うから…。姉は多分父親に引き取られた…と思う…。」
スティーブは少し頷き目をそらした。
「あー。じゃぁ、その、Jokerのせいで家族が引き離されたって、どういう意味?」
キルは服の左手側の袖で口を拭いた。
「Jokerに魅せられたせいで父はぶっ壊れ、Jokerのせいで母は精神的に狂ってしまった。…で、自分は生まれた時から施設に預けられ育った。この歳で親元に戻った…が、一度イカレタ家庭は修復できないことを知った…だから家出して、姉を頼りに探している…。」
「そうか。悪いこと聞いたよ。」
「別にいいさ…。」
やはり、キルは能面のような無表情で淡々と答えた。
「Jokerをみつけたらどうする?」
「…どうもしない。できればJokerというよりも、Jokerを造った醜い人間を抹殺したい。」
キルの鋭い緑色の目に、冷たい汗が背中を流れてることをスティーブは感じていた。
「やっぱり一人で勝手に来たの、まずかった…。」
鬱蒼とした山の中を木々を払いながら屡鬼阿は歩いていた。
「薄気味悪い…。秋だし、クマ出たらどうしよう…」
そういいながらも屡鬼阿はどんどん山奥へ登って行った。
木々を払いのける手に先ほどまで触っていた水滴とは違う感触の水滴の感じがした。
自分の手を見ると少し褐色の色をしていた。
手の臭いを嗅ぐと少し鉄のにおいがした。
屡鬼阿は恐る恐る前方を見た。
茂みの奥からガサガサという音が聞こえる。
「まさか…本当にクマ?」
空気が冷たく、不気味さを肌で感じた。
屡鬼阿はそっと物音がした方へと近づき茂みをかき分けた。
「なにこれ…」
茂みの奥には血液で染まった落ち葉とミンチ状のグニグニとした肉が落ちていた。
「自ら迷い込んでくるなんて、なーんて愚かな小鹿ちゃん♪」
屡鬼阿は声がする方に振り返った。
返り血を浴びた洋服を着ている目の黄色くなった男性が右手に鉈を持っていた。
屡鬼阿は後ずさりし、向かってくる男と一定の距離を保った。
「たまらないね~そのおびえる表情。」
男はジリジリと屡鬼阿を追い詰める。
「クマは一度自分の好きな味を占めると、ずっとその獲物ばかり追い求める。人間を食べた熊は人間ばかりを追い求めるんだよ。人間が美味だったんだろう。試しに食べてみたんだよ。それはそれはおいしくてね、ほかの肉とは比べ物にならなかった。特に若い女性がいいっ!殺したてに一発ぶち込んで快楽も味あわせてくれる。そして食欲も満たしてくれる。最高の食材だよ。」
男の言葉に屡鬼阿は恐怖した。
さらに後ずさりをしたその瞬間、屡鬼阿の足は地面をとらえておらず、浅いが大きな溝に落ちた。
「そこが君のお墓だよ。お友達もいるし寂しくないだろう。」
穴を見下ろしながら男は笑っていた。
屡鬼阿が落ちた場所には被害者の女性たちが着ていた衣類と白骨化した本人たちが積み重なっていた。
「な、なにこれ…」
男は奇妙な笑い声を上げながら屡鬼阿の前に降り立った。
「これぜーんぶ、やって食べた。おいしかったんだ。」
男は屡鬼阿の頬に鉈を当てた。
「いいっ!いいっ!!!その表情!!」
男の股間の部分が勢いよく、いきり勃つ。
屡鬼阿は全身の血の気が引いていく感覚がわかった。
「全身がうまそうだ。特にこの豊満な胸。ここが特にうまい。」
男は屡鬼阿の胸元を人差し指で軽くなぞった。
屡鬼阿は男の顔を拳で殴り、怯んだ隙にさらに森の奥は駆けて行った。
「あぁそっちは!」
屡鬼阿は無我夢中で走った。
脇目も振らず、前さえ見ないで…。
いつしか道は途絶えていた。
それに気づいたとき、屡鬼阿の頭部は地面に向かって風を切っていた。
屡鬼阿は君の悪い男が、自分の落下している姿を見るために崖の淵から覗き込んでいる姿を目視した数秒後、後頭部に強い衝撃と痛みのような感覚を受け意識が途絶えた。
「あーあ。こんなに落差あるところたったの数秒で降りちゃった。もったいない。」
崖の下の屡鬼阿の頭部からじわじわと赤い液体が広がることを男は確認し、男かけを離れた。
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