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見えない花
しおりを挟む沈む夕日は少女にとっては残酷な灯りだった。
なぜなら、少女は盲目だったからだ、少女の名前は妙子という。
妙子の世界は音の世界のみだった。
妙子には光というものが存在していなかったからだ。
鳥のさえずりに雨の音であったが、妙子にとっては悲しい音の響きにしかすぎない。
妙子は生まれた時には盲目ではなかったが、突然、病にて盲目になったのだ。
「お母さん、喉がかわきました、お水をください」
そう、小さな声でつぶやくと母親は優しく妙子に告げた。
「ほら、ここを持ってね、わかるかしら、妙子?」
母親は丁寧に妙子に水をもらさないようにコップに水を入れて渡したのだった。
「はい」
妙子もか細い声で母親に伝えた。
そして、母親は妙子に優しい声で教えてくれたのだった。
教えてくれた事は妙子の恋人である、幸三が間もなく訪れることだったのだ。
「ほら、妙子、間もなく幸三さんがお見えになるそうよ」
妙子の胸は張り裂けんばかりに、ときめかせていた。
幸三は優しく妙子の盲目であろうと、妙子を愛していた。
盲目であるからこそ、守ってあげたいという想いが幸三には強かったのだ。
しかし、どうすることもできない想いにやるせない気持ちを持っていた。
そして、幸三は妙子の元へ現れた。
手にしているのは幸三が川辺で取ってきた花だった。
川辺で取ってきた花は可憐にも美しかった。
しかし、見ることができなかった妙子の手を優しくにぎりしめて、幸三は言葉で色合いなど説明するのだった。
妙子は見えなくとも幼い頃の花の記憶はあったのからだ。
そして、妙子は何より花が好きだったのだ。
そのため、幸三は言葉で妙子に伝える事しかできなかったのだった。
それでも、妙子にとっては花の輝きと同時に幸三の優しさに触れる事ができた。
「ありがとうございます、幸三さん」
母親はいつか妙子が見えるようになると、優しい嘘をついていたが、それは逆に残酷なことであったが、幸三もそのことを知っており、辛い思いをしていたのだった。
なぜなら、妙子はいつの日か見えることが出来ると信じていたからだ。
母親は悩んだ結果の判断だった。一生、見えないまま過ごすより、希望の明かりをつけてあげた方がいいとおもったからだ。
優しくも残酷な嘘であった。
そしては風鈴の音が切なく響く時だった。
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