四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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後日談

幸せは実る

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 __昼下がり。



 陽に照らされた書斎には、二つの影がいた。





「オリビア、この書類を頼めるかい?」

「ええ。お任せ下さい」



 無数の目玉と触手を携えた男は、オリビアという女性に数枚の書類を渡すと、机にまだ置かれたままの大量の紙束に目を通していく。そして、そこからまた数枚抜くと、オリビアに手渡すを繰り返していた。
 オリビアはその書類を書棚に区分けし、時折目を通しては男の方へ歩み寄る。


「ラゼイヤ様、此方の書類に不備が御座いますわ」


 オリビアは、目の前で書類整理をしているラゼイヤに紙一枚を手渡した。


「ああ、すまないね。君がいると本当に助かるよ」


 ラゼイヤはそう言って微笑む。オリビアもそれに笑顔を返した。



 国の政務を務めるラゼイヤ。その妻となったオリビアは、彼の秘書としての役割も果たしていた。

 昔は一人でこなしていた作業も、彼女がいるおかげで予定の半刻前に終わらせることができるようになっている。

 一人では気付けなかったミスも、今では皆無に近かった。





「オリビア。一区切りつきそうだし、そろそろ休憩しようか」

「ええ、それもそうですね」


 二人は書斎の中を軽く片付けると、テラスへ向かう道を歩いて行く。

 手はしっかりと繋いでいた。





 テラスに置かれた円卓と二人分の椅子。真っ白なクロスが引かれた円卓には、やはり二人分のティーカップと菓子が乗った皿が置かれていた。

 それを時折摘んでは、他愛も無い話をオリビアとラゼイヤは続けていた。


「それでですね、この前クロエが血相を変えて走ってたのですけど、その後ゴトリル様が走ってきましてね。後でクロエに話を聞いたら、『抱っこされるのが嫌だから逃げていた』そうで」

「ゴトリル…彼奴という奴は、全く……そういえば、つい先日バルフレが時を止める道具を開発したらしいのだが、彼奴のことだ。どうせエレノアと長くいたいとかいう考えだろうに」

「フフ、バルフレ様らしいですね。ラトーニァ様も此処最近はルーナにずっと付きっきりだそうですよ。彼女は『甘えた』と言っていましたが」

「そうだな。ラトーニァが私達以外に甘えるのは初めてかもしれん」


 近々あった兄妹達の話だけでも、御茶会は盛り上がる。
 一年前だったらこんな風に楽しくは話せなかっただろう。



 あの婚約破棄からこの幸せを得られるとは、誰も予想できやしない。

 無理矢理嫁がされた隣国で公爵達と結ばれた自分達が、今もこうして最愛の人と笑顔でいられるのが、至高であった。



「オリビア。どうかしたのかい?」


 首を傾げているラゼイヤに、オリビアは微笑む。


「幸せだと、思っただけです」


 そう言うと、彼の触手が一瞬固まった。


「……そんな顔で言われたら、参ってしまうな」


 照れ臭そうに笑う彼が、とても愛しかった。

 そんな彼を、少しだけ驚かせようか。


「ラゼイヤ様」

「うん?どうしたんだい」


 きっと、これを言ったら彼は驚く筈だ。そんな悪戯をするような、ワクワク感が止まらない。

 一呼吸し、口を開く。





「私、今お腹に貴方様の子がいるんです」










 その後、ラゼイヤは椅子に座ったまま後ろへひっくり返り、顔面に勢いよく紅茶を溢すことになる。

 まさかそこまで驚くとは思わず、オリビアも動揺してしまうのである。



 その音に駆けつけた兄妹達がこれまた盛大に二人を祝ってくれるのだが、それはまた別の話。
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