四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚礼

契約成立

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「あたしは、ベルフェナールで罪を償います」


 アレッサの言葉に、一人佇んでいたオリビアは息を呑んだ。

 彼女がタダでは起きない女であることは、今回の騒動でよくわかった。
 故にアレッサに対する不信感が拭えなかった。

 きっと彼女は、未だ諦めていない。
 公爵達は標的から既に外れているだろうが、また別の誰かを捕まえるだろう。

 執念深い彼女だからこそその可能性があった。


「そうですか。なら契約成立だ」


 ラゼイヤの言葉に、オリビアは不安を募らせている一方で、アレッサは心から安堵していた。
 あまりに温度差のある二人の間で、ラゼイヤは続け様に言い放つ。


「では、貴女の処罰については五男のディトに任せることにしましょう」


 その発言に驚いたのは、姉妹達だけであった。

 此処でディトの名が出るとは、思わなかったからだ。



 いや、確かに彼は更生指導官という職務に就いているはずであったから、そうなるのは当たり前なのかもしれない。しかし、その彼が直々にアレッサを任せられるのは一体どういう考えなのだろう。
 姉妹達には理解できなかった。



 ただわかるのは、ディトの名が上がった瞬間、神殿内のざわめきが今日一大きくなったことだ。


「おいおい、嘘だろ」

「ディト様に任命するとは」

「まさかディト様がいらっしゃらないのは、これが理由で?」


 国民は皆狼狽えた様子で何やらヒソヒソと囁く。その内容はどれも真実に到達できるものではなかったが、十分に不穏を纏っていた。

 アレッサも、その囁きに耳を傾けている。その五男に会ったことすらない彼女が一番この場を理解できなかっただろう。


「あの……公爵様」

「何ですかな?アレッサ嬢」

「その、ディト様とは、一体どのようなお方で?」


 アレッサの問いに、ラゼイヤは快く答える。





「彼はですよ。この国の刑務は大方彼が担っていましてね」


 刑罰……という言葉に、アレッサも姉妹達も悪寒が走った。



 バルフレは更生指導官と言っていたはずだ。刑罰執行官という物騒な役名なんてアミーレアでも聞いたことがない。

 あのディトが?刑罰?

 姉妹達がどれだけ思考を巡らせても、あの爽やかな好青年の姿をした彼と、その職名が重なり合うイメージができなかった。
 人の良さそうな彼が刑罰を執行できるようには見えなかったから。



 その時だった。















 こつ こつ こつ こつ



 アレッサが入ってきた扉の向こう側から、足音が聞こえてくる。



 がちゃ がちゃ がちゃ



 何やらたくさんの金属が擦れ合うような音も聞こえてきた。



 こつ  こつ   ごつ    ごつ



 足音は次第に大きくなり、重々しいものとなっていく。



   ごつり



「ごめんごめん!遅れちゃった!」





 あの日、ダイニングで初めて出会った時と同じ言葉を吐いたそれは、婚礼の日には似つかわしくない、真っ黒な甲冑を身に纏っていた。
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