87 / 101
婚礼
契約成立
しおりを挟む「あたしは、ベルフェナールで罪を償います」
アレッサの言葉に、一人佇んでいたオリビアは息を呑んだ。
彼女がタダでは起きない女であることは、今回の騒動でよくわかった。
故にアレッサに対する不信感が拭えなかった。
きっと彼女は、未だ諦めていない。
公爵達は標的から既に外れているだろうが、また別の誰かを捕まえるだろう。
執念深い彼女だからこそその可能性があった。
「そうですか。なら契約成立だ」
ラゼイヤの言葉に、オリビアは不安を募らせている一方で、アレッサは心から安堵していた。
あまりに温度差のある二人の間で、ラゼイヤは続け様に言い放つ。
「では、貴女の処罰については五男のディトに任せることにしましょう」
その発言に驚いたのは、姉妹達だけであった。
此処でディトの名が出るとは、思わなかったからだ。
いや、確かに彼は更生指導官という職務に就いているはずであったから、そうなるのは当たり前なのかもしれない。しかし、その彼が直々にアレッサを任せられるのは一体どういう考えなのだろう。
姉妹達には理解できなかった。
ただわかるのは、ディトの名が上がった瞬間、神殿内のざわめきが今日一大きくなったことだ。
「おいおい、嘘だろ」
「ディト様に任命するとは」
「まさかディト様がいらっしゃらないのは、これが理由で?」
国民は皆狼狽えた様子で何やらヒソヒソと囁く。その内容はどれも真実に到達できるものではなかったが、十分に不穏を纏っていた。
アレッサも、その囁きに耳を傾けている。その五男に会ったことすらない彼女が一番この場を理解できなかっただろう。
「あの……公爵様」
「何ですかな?アレッサ嬢」
「その、ディト様とは、一体どのようなお方で?」
アレッサの問いに、ラゼイヤは快く答える。
「彼は刑罰執行官ですよ。この国の刑務は大方彼が担っていましてね」
刑罰……という言葉に、アレッサも姉妹達も悪寒が走った。
バルフレは更生指導官と言っていたはずだ。刑罰執行官という物騒な役名なんてアミーレアでも聞いたことがない。
あのディトが?刑罰?
姉妹達がどれだけ思考を巡らせても、あの爽やかな好青年の姿をした彼と、その職名が重なり合うイメージができなかった。
人の良さそうな彼が刑罰を執行できるようには見えなかったから。
その時だった。
こつ こつ こつ こつ
アレッサが入ってきた扉の向こう側から、足音が聞こえてくる。
がちゃ がちゃ がちゃ
何やらたくさんの金属が擦れ合うような音も聞こえてきた。
こつ こつ ごつ ごつ
足音は次第に大きくなり、重々しいものとなっていく。
ごつり
「ごめんごめん!遅れちゃった!」
あの日、ダイニングで初めて出会った時と同じ言葉を吐いたそれは、婚礼の日には似つかわしくない、真っ黒な甲冑を身に纏っていた。
0
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう
水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。
しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。
マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。
マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。
そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。
しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。
怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。
そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。
そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる