四人の令嬢と公爵と

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婚礼

やっぱり何処までも腐ってる

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 目の前で膝折れるアレッサの姿は、なんとも痛々しげであった。

 自分の全てを暴露されたのだ。立ち直れる方が可笑しい。
 そんな彼女を、ルーナは眺めていた。


(まさか、そんなことを考えていたなんて)


 流石にアレッサの思考は、ルーナでも理解できなかった。そこまでして欲する理由がわからないのだ。

 自分だったら、こうまでして奪おうとは思わない。そこまでに思考が至ることはないし実行する気も起きない。

 しかし、目の前にいる令嬢は、それを成そうとして、自滅した。
 これでは後にアミーレアで相応の処罰を受けることになるだろう。隣国の、公爵相手に粗相を為したのと一緒であるのだから。


(こんなことしなくても、幸せになれる道はいくらでもあったでしょうに)


 そんなことも考えたが、すぐさまそれを自分で否定する。


(彼女に何があったのかは、私は何も知らないわ。もうこうするしかなかったのかもしれない)


 自分はあくまで自分だ。ラトーニァのように相手の素性がわかるわけでもない。
 それで相手を分かったかのように捉えるのは、失礼だと思っていた。


(アレッサ嬢……)


 ルーナにとって、アレッサは自分達を陥れた張本人である。
 しかし、そんな彼女を心から憎めないのが、ルーナの短所であり長所でもあった。

 ルーナは、優しすぎる。

 アレッサにですら、憐れみと慈しみを感じてしまうほどに。



 そんな時だった。

 アレッサと目が合ったのは。



 アレッサの目を見た時、ルーナは心の底から凍りつくのを実感した。

 彼女の目。自信喪失したその目は、ルーナに向けられた時再熱した。
 まるで仇でも見るような、憎悪に満ちた眼差しに、ルーナは顔を強張らせた。

 このような黒々とした目を見たのは、初めてである。

 ルーナはその目が恐ろしくて、その場から逃げそうになった。しかし、それすら許されないように、体は全く言うことを聞かず動けぬままであった。


(アレッサ嬢、何故?どうしてなの?)




















 何よ、その目。

 その心から憐れむような目は。
 悲しんでいるつもり?
 同情でもしているつもり?
 やめて。
 そんなもの私に向けないで、惨めになる。



 大体、お前が、お前らがその座を譲ればこんなことにはならなかったんだ。なんでお前ら如きがこの私より格上なんだよ。身の程を弁えろ。

 私は生まれた時から美しかった。今までそれで何人もの男を手玉にした。
 おねだりすればなんでもくれたし、邪魔な女がいたら掃いてくれた。
 望めばなんだって叶った。

 なのに、どうして公爵そいつらは思い通りにならないの?
 こんなに綺麗なを無碍にするなんて頭おかしいんじゃないの?
 髪も、顔も、体も、全部完璧な上にこの上質なドレスまで着こなすあたしなのよ。
 可愛い仕草だってできるし、甘い声も出せるし……夜だって、今までにたくさんの男共に夢を見させてやったのに。
 そんなあたしを手に入れられる機会を、あっちからお断りするなんて。
 あんな風情が、あたしをコケにしやがった。

 それもこれも、全部ガルシアこいつらのせいよ。
 こいつらさえいなければ、今頃あたしは公爵夫人の座に着いて、優雅な暮らしができたはずだったのに。

 なんでお前らが選ばれたんだ。
 なんの取り柄もない、凡人のお前らが。

 さっきから憐れんでるお前。名前は……もう忘れたわ。興味無いし。

 その目だって気に食わないんだよ。
 何それ?自分は悲劇のお姫様でも演じてるつもり?馬鹿みたい!
 そんな悲しそうな顔したって、凡人の顔に男は誰も振り向いちゃくれないわよ。

 髪も艶無し、体も貧相なお前があたしに敵うとでも思ってんの?
 さぞ勝ち誇ってるんでしょうねぇ。あたしがこんな目に遭ってるんだから。

 本当に忌々しい。お前の何が良いんだ。
 何処からどう見ても中の下みたいなお前が、あたしをそんな目で見下ろして良いと思ってんだ。



 あたし以下の奴なんて、みんな底辺だ。





 底辺如きなのに調子乗ってんじゃねぇぞ!
 この醜女ブス!!!






























「調子に乗ってるのはどっちだ」
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