四人の令嬢と公爵と

オゾン層

文字の大きさ
上 下
76 / 101
婚礼

怒り

しおりを挟む





 大広間に響き渡った怒号。

 つんざくような叫びに、大広間にいた皆が固まる。

 その声は公爵達でも、アグナスでも、ガルシア夫妻でも、ましてや国民達のものでもない。















 クロエであった。





「婚礼の邪魔をしにきたと思ったら、側妃になれですって?冗談も程々にしなさいよ!!誰があんたのとこに戻るもんですか!!」


 クロエは、アグナスに負けないほどに顔を真っ赤にして怒鳴っている。先ほどまでクロエを抱えていたゴトリルもこれには目を丸くしていた。

 ロズワートもこのようなクロエの姿を見たことはないようで、あまりの激昂に怯んでいる。しかし、それでも口を開いたのだ。


「な、何を言っているんだ!側妃にしてやると言っているんだぞ?婚約解消もなかったことになるんだ。傷物キズモノと言われる心配も無くなるだろう?」

「何が解消よ!!あんなの婚約破棄と一緒よ一緒!それに、こっちはもう婚礼も終わってるの!今更そっちに戻る理由も必要も無いわ!!」

「うぅ……な、なら、その婚礼を破棄して」

「馬鹿じゃないの!?私はなの!!あんたなんかよりずぅっと!!!」

「うぅ……」


 負けじと言い返そうとしたロズワートに、クロエは怒り狂った様子で言い負かす。それに混じって何やら恥ずかしい発言もしていたようだが、今のクロエは自分の発言にすら気付いていないようであった。


「あと、今だから言わせてもらうわ。その上から目線で頭ごなしな態度、前々から大っ嫌いだったのよ!!私のこと『可愛くない』とか言って避けてた癖に!今度は『戻ってこい』だ?我儘言うのも大概にしなさいよこのドラ息子!!!!!」


 クロエの怒涛の叫びに、辺り一体が湧いた。


「いいぞ!もっと言ってやれ!」

「そうだそうだ!」

「王太子如きがクロエ様に烏滸がましいぞ!」


 国民は皆口々とクロエを称賛し、拍手を叩いている者もいる。
 訓練場で長らく鍛錬していたのもあって、多少兵士達の言葉が感染っている気もするが、それを批判する者は誰一人としていなかった。

 しかし、それでロズワートが引くのかというと、そうでもない。
 むしろ、クロエの言葉に我慢していた怒りが弾けた。


「なんだよ!クロエのくせに!!僕は王太子なんだぞ!?僕の側妃になれるんだぞ!?そんな有難い地位に付ける機会を与えたというのにお前は!!」


 「僕」と一人称まで変わったロズワートは、ズカズカとクロエの前まで駆け寄ってきて、



「大人しく言うことだけ聞いてれば良いんだ!!」



 クロエの腕を掴んだ。

 咄嗟のことに、クロエは体が固まった。
 大嫌いな彼奴に腕を掴まれ、背筋に悪寒が走った。そのせいか、鍛錬で得た力も知識も、今は動かせるまでの思考に至らなかった。

 ただ恐怖が、クロエを包む。





 お前は本当に__





「嫌ぁ!!!!!」

























「離れやがれっ!!!!!!!!!!」





 地響きのような怒鳴り声と共に、ロズワートの体が吹き飛んだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...