四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約(正式)

誠意

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「まず、私はこの手紙を開けてはいない。開けなくとも中身は読めるからね」


 ラゼイヤは、手の中にある封筒の束をヒラヒラと弄ぶ。


「そして、返事をするつもりも勿論無い。こんなくだらない紙切れに答える意味は皆無だからね」

「で、では……何故残しているのですか?」


 額に残るキスの感触から意識を戻しつつあったオリビアがそう問えば、ラゼイヤは悪戯に笑った。


「証拠だよ」

「しょう、こ?」

「そう。証拠として残しておくんだ。彼方側が墓穴を掘るのに十分な材料として、ね」


 そう言って笑うラゼイヤを、オリビアは少しだけ恐ろしく感じたが、理由を聞いた途端、今まで抱えていた不安も少しだけ和らいだ気がした。
 だが、完全に拭えたわけではない。手紙の内容も気になるし、ラゼイヤの本心も未だわからなかったからだ。


「ラゼイヤ様、その、手紙の内容についてなのですが……」

「君は知らなくて良い」


 この問いには、ラゼイヤは間髪入れずに拒否した。


「あんなもの、君の視界に入れる価値も無い」


 ラゼイヤはそう言って、封筒を乱雑に机の上へと投げ捨てた。


「オリビア」


 ラゼイヤに名前を呼ばれ、オリビアは顔を上げる。

 優しく微笑む彼は、慈しむような眼差しを彼女に向けていた。蠢く目玉も、何処か優しい。
 オリビアの目元を指で優しく撫でると、彼は口を開いた。


「本当にすまない。君が此処まで辛い想いをすることまで考えていなかった」

「ラゼイヤ様……」


 しゅんと、心底後悔しているような顔に、オリビアも何故だか申し訳ない気持ちになる。しかし、彼は一呼吸置くと、続けて言葉を放った。





「私はね、オリビア……君のことが好きなんだよ」





 微笑んで紡がれた言葉に、オリビアは時間が止まったように思えた。


「初めて見た時から綺麗だと思っていたが、日が経つにつれて君の良いところがたくさん見つかった。慎ましく、思慮深く、立ち振る舞いも何か何にかけて君は華やかだった。私の書斎で本を読む君の表情もコロコロ変わったりして、見ていて飽きなかった」


 ラゼイヤの口から溢れたものは、オリビアに対する想いであった。


「……やっぱり恥ずかしいな。らしくない」


 ラゼイヤは、照れているようで苦笑いしている。だが、それに対してオリビアは何も発することができなくなっていた。



 この人が言ったことは、全て本当のこと?

 なら、そしたら、私は……



「私は、君が好きなんだ。君でなければ嫌なんだよ、オリビア。こんな醜い私でも、君が受け入れてくれるのならば、君が良ければ、一生を懸けて添い遂げたい。そう思えるほどに」


 率直な告白に、オリビアは火がついたように顔を赤く染めた。


「……わ、わたし、は」


 緊張で固まっていた口を、オリビアはゆっくりと動かした。



「私は、貴方様のそのお言葉が、聞けただけで__



 幸せです……という言葉は、オリビアが顔を伏せたことでラゼイヤの胸に溶け込んでいった。

 しかし、全て聴こえていたのであろう。ラゼイヤはより一層微笑むと、オリビアを優しく抱きしめていた。


「君は私のものだ。私も君のものだよ。オリビア」



 あまりにも独占欲の強い言葉を残して、ラゼイヤはオリビアの左手の甲に口付けた。















 その光景を、外の通路でメイドのルクレとライラがこっそり覗いていたことを、二人はまだ知らない。
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