四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約(正式)

告白

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 __ラトーニァの背後に着いて、いつもの中庭に向かう道とは別、獣道すら無い森の中をルーナは歩いていた。

 森の中は当然暗く、目の前を歩くラトーニァの背中すら不明瞭であった。


「ラトーニァ様、これから何処に向かわれるのですか?」

「な、ないしょ」

「ですが、これだけ暗いと、危ないのでは」

「大丈夫。『視え』てるから」


 その言葉に、ルーナは暗闇の恐怖が少しだけ和らいだ。


(そうだわ。ラトーニァ様には魔法がありますものね。だから大丈夫……)

 ラトーニァの魔法を信じていたから。





「ルーナ、此処だよ」


 ラトーニァがそう言うと同時に、視界に光が差し込む。
 それは日差しのような眩しいものではなく、目に優しく触れる程度の光であった。


「まあ!」


 視界が明るくなったことで、全景を捉えることができたルーナの口から出たのは、今振り絞ることができる最大限の感嘆符であった。



 ルーナの目の前では、円く満ちた月の下で白く輝く花々が咲き乱れていた。

 辺り一面が白い花に囲まれ、時間が経つにつれてその輝きを増していく。
 時折扇ぐ微風に、花畑は優しく首を揺らしていた。


「綺麗!!」


 ルーナは目の前の絶景に目を奪われていた。

 月の光と花の輝きだけで照らされた世界は、この世のものとは思えないほどに美しかった。


「此処、僕のお気に入りの場所……秘密の、花園」


 ラトーニァは恥ずかしそうに言った。


「僕、小さい頃から、よく此処に来てたんだ。嫌なことがあったり、とか、楽しいことがあっても、来てたの」

「……そうなのですね」

「うん」


 ラトーニァは、足元に咲いていた花を一輪摘むと、ルーナに恐る恐る差し出す。


「え?」

「あ、あげる」

「ですが、これはラトーニァ様の……」

「い、良いの!だって、此処はもう、えっと……」

「?」

「き……





君の場所でもあるから!!」


 うわずった声で、ラトーニァは高らかに叫んだ。

 二人しかいない世界で放たれた言葉は、虚空へと木霊していく。
 ルーナには、一瞬ラトーニァの言った意味が理解できなかった。


(君の場所……?)


 ルーナが考えるよりも先に、ラトーニァは話を続ける。


「こ、此処に呼んだ人は、き、君が初めて、で、きょ、兄弟も、呼んだことがないんだ!」

「え……それって」

「う、うん……」


 ラトーニァが、決心したように口を開く。





「君が……と…………特別だからっ!!!」



 その言葉の真意は、今度こそルーナに届いた。


「とく、べつ…………」


 『特別』……姉妹よりも、公爵の兄弟よりも特別だから、此処に呼ばれた。

 その真実が、ゆっくりと確実にルーナの心に刻まれ、原動力のように鼓動を加速させていく。
 湯冷めしていた体は熱を帯び始め、息苦しさも覚えた。

 今のルーナは、自分でもわかるほどにのだ。


「ルーナ……」


 ラトーニァは、ずっと花をルーナに差し出している。
 差し出されたままの花を、ルーナは震えた手で受け取った。今は彼の顔も見るのが恥ずかしく、花の方へと目を向ける。

 花は、ルーナの手の中で白く輝いており、その光が衰える気配は無い。


「君は……花が、よく似合うね」


 顔は見えなかったが、自分を褒めてくれたその声は優しい鈴のような音色だった。


(ラトーニァ様。やっぱり貴方は、美しい人です)


 温まった体が夜風に当たって心地良い。
 この人の優しさが、心地好い。


(……私、この人のことが、好き)





「僕も」


 澄んだ声が、花畑に響いた。


「…………へ?」


 恐る恐るルーナが花から視線を外すと、目の前にいたラトーニァの顔が見えた。

 いつもの怯えた顔でも、恥ずかしがる顔でもない。

 年相応……見た目相応の男の顔が、異形の角を生やした眼孔が、ルーナの方へ真っ直ぐと向けられていた。



「僕も、好きです。ルーナのこと」



「…………えぇっ!?」


 突然の告白に、ルーナはラトーニァのように素っ頓狂な声をあげてしまった。


(好きって、好きって!?え!?そんな……!!)


 頭が回らない。上手く理解できない。
 自分が好きだと思ったら、まさか相手から告白されるなど思ってもいなかった。


(そんな、好き、だなんて……





…………あれ?)


 この時、ルーナは急激に上がっていた熱をも下げる疑問を抱いていた。



 僕、好きです。



 僕





「うん、やっぱり、気になるよね」


 ルーナが聞くよりも早く、ラトーニァは理解しているようだった。

 いや、


「あのね、ルーナ。僕ね……君に隠していたことがあるんだ」


 その言葉は力無く、自信の無さを意味付けていた。


「僕、ね。僕の、生まれつき持ってる魔法……得意な、魔法ね」


 何かを恐れているように、体が少し震えている。


「きっと、ルーナは怖がるから、言いたくなかったけど……もう、決めたから。言うね」


 しかし、決心したその顔には、一切の後悔が見られなかった。


「僕……















 が視えるんだ」
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