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婚約(正式)
今度こそ、正真正銘の
しおりを挟む「……では、今書類の方をお作りしますので」
ラゼイヤは現在、ガルシア一家に見守られながら魔法で書類を作っている。
机に置かれた真っ白な羊皮紙に手を翳し、じっと念じている。すると、紙上に次々と文字が浮かび上がってきた。
初めて見る魔法に目を輝かせるデカートとミシリア。その視線が痛くて仕方がないラゼイヤ。
その光景を姉妹達は申し訳無さそうに眺めていた。
しばらくしていると、羊皮紙は文字で一杯になった。
「……はい。後は此方にそれぞれの婚約者の名前を記入すれば、契約成立となります」
ラゼイヤがそう言って出した書面は、姉妹達の前に置かれている。
『此処に名を記入した者同士の婚約を正式なものとして認める』
その一文の下には、名前を書く場所であろう空白の欄が二対で並んでいる。丁度四組分であった。
「オリビア、君からどうぞ」
「え、そんな、私からなど」
「良いんだ。私達は後でいいから、君達から先に」
「……では、失礼ながら」
そう微笑んでペンを差し出すラゼイヤに促され、オリビアは書面にペン先を置こうとした。
「お待ちください」
ミシリアが止めに入ったのは、それと同時であった。
彼女の声に、ラゼイヤの肩と触手がビクリと跳ねる。
「どうかなさいましたか、ミシリア夫人……」
ぎこちない笑顔を向けるラゼイヤに対して、ミシリアは自然な微笑みを返した。
「此方の文面ですが、『万が一ガルシア辺境伯御令嬢方が契約を拒絶した場合、この契約書は無効となる』と書かれていますわ。この一文は余分ではなくって?」
「「えっ!?」」
母の言葉に、姉妹達も驚いてもう一度用紙に目を通す。
ミシリアが指摘した部分には、小さくてわかりにくいが確かにそう書かれていた。
「しかも、『契約書が無効となった場合、ラヴェルト公爵側はガルシア領を手放すこと。尚、ガルシア領の保護は継続されるものとする』だなんて、これでは公爵様が不利ではありませんこと?」
ミシリアは次々と、契約書の穴を指摘していく。どれもこれも、ガルシア側にしか有益でない内容が小さく書かれており、姉妹達は目を疑った。
どういうことなのかと彼女達がラゼイヤの方に目を向けると、彼は微笑んだまま冷や汗をダラダラと流している。それを背後で見守っていたゴトリルは、悪戯がバレた子供を元気付けるかのように笑いながらラゼイヤの背中を摩っていた。
「兄貴、気持ちはわかるけどよぉ……諦め悪いのは嫌われるぜ?」
「お前に言われたくはない」
「まあ、そうだけどよ。もう普通にした方が良くねぇか?」
「そうかもしれんが……せめて彼方側がこの先何かあった場合も考えてだな」
「ほんと、兄貴ってお人好しだよなぁ。俺じゃそこまで考えねぇよ」
「お前は考える努力をしないだろう」
二人が言い争いを始めようとした時、ミシリアがその場に割って入った。
「私達は大丈夫ですので、此方の文面はご添削なさってください。娘達の決心を、無駄になさるおつもりですか?」
ミシリアがそう強めに言うと、ラゼイヤは言葉を詰まらせていた。ゴトリルもお手上げといった様子で両手を上げている。しかし、当事者ではない彼の表情は楽しげであった。
そんな彼を睨みつけた後、ラゼイヤは一呼吸してミシリアの方へと顔を向けた。
「……わかりました。これでよろしいですか?」
彼がそういった時には、既に書面からその類の文面は消えていた。ミシリアはしばらくその用紙を眺めていたが、全てに目を通したのか顔を上げて微笑んだ。
「ありがとうございます。さあ、オリビア」
「は、はい」
母に促されるまま、オリビアは書面にペンを走らせた。
続いて他の姉妹達も名前を書き、その後、公爵達も名前を記入した。
全員が名前を書き終えると同時に、契約書はその場に浮かぶや否や、光に包まれて消えてしまった。
「……これで、契約は成立です」
「あら!なんて綺麗なのかしら……それで、婚礼は予定通り1年後ということでよろしいでしょうか?」
「はいその通りです」
「わかりましたわ!婚礼の際には是非とも呼んでくださいね!」
「勿論ですとも……」
満足げに笑うミシリアに対して、ラゼイヤの顔はやつれていた。その姿に姉妹達は同情したくなった。
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