四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚礼

前夜

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 __来客が帰った頃、辺りは既に暗くなっていた。



 散々着せ替えを繰り返して心身共に疲れ切っていた公爵と令嬢は、明日の婚礼のため足早に寝室へと向かっていった。










「…………」


 ベッドの中。クロエはあまり寝付けないようで窓の外を眺めていた。

 窓から見える夜空はキラキラと輝いており、大層美しかった。


(明日になったら、私はゴトリル様の妻になるのよね……)


 クロエは、明日のことを思っては溜息をつくという行為を繰り返していた。


(やっぱり緊張しちゃう)


 神殿に向かい、ゴトリルと共に婚礼の儀を行う。そしたら正式に夫婦になって、その後は……


(なんだか、恥ずかしくなってきましたわ!)


 クロエは思考を払拭するように、ベッドの奥へと潜った。





 寝る前に、エレノアは髪を梳かしていた。


「明日にはバルフレ様と夫婦になるのね!楽しみですわ!!」


 緊張していたクロエと違い、エレノアは嬉々とした様子で髪の手入れを続けていた。


「……バルフレ様」


 ふと、髪を梳かす手を止める。

 エレノア頭の中で、此方に微笑むバルフレの姿が映し出される。

 記憶の片隅に置かれたその光景を、何故か今思い出してしまったエレノアは、頬を赤く染めていた。





 自室にて、ルーナは花瓶に挿した花に手入れを施していた。

 花はラトーニァから貰ったものであり、ルーナが手入れを怠ることは一度も無かった。


(明日になったら、ラトーニァ様と……)


 そんなことを考えながら、花を愛でていた。

 この想いは、今あの人に伝わっているのだろうか。





 オリビアは、ベッドに入らず、窓を開けて風に当たっていた。


(駄目だわ……)


 どれだけ冷たい風に当たっても、オリビアは体の熱が収まる気がしなかった。

 夜を迎えてから、明日のことを意識しているうちに、何故だか動悸と熱に体が支配されてしまっていた。

 原因はわかっているが、それがよりオリビアの熱を上げる。


「これは、楽しみなのかしら」


 楽しみ……明日の婚礼が楽しみで仕方ないのだと、自分自身を察していた。

 明日になれば、ラゼイヤが自分の夫になり、自分は妻になる。

 それに心躍らせているのが、嫌でも理解できた。


「……早く寝ないと」


 オリビアは窓を閉めると、ベッドに横になって目を瞑った。

 しかし、どれだけ経ってもその熱が冷めることはなかった。



 令嬢が次に目を覚ませば、明日は今日になる。





 婚礼は間近であった。















「ついに明日か」


 自室にて、机上と睨めっこをしているのはラゼイヤであった。ラゼイヤは今日のごたつきを思い出しては静かに笑っていたが、すぐに明日の婚礼について思い描いた。



 ガルシア辺境伯夫妻には真っ先に招待状を送った。

 アミーレア王国のアグナス王にも送った。

 それ以外ではベルフェナールの達にも送った。

 末っ子は家族だから招待状の必要はない。

 そして



 ラゼイヤは、机上に置いたままであった書きかけの便箋2枚を掌で撫でる。


「奴らは送らなくとも、期待は裏切らんだろう」


 優しい手つきで撫でられた紙は、音もなく灰になる。





 誰かに送るはずであったその招待状は、今や塵となって机を汚していた。
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