四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚礼

前日

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 __待ちに待った挙式も、明日になろうとしていた頃。



 まだ何も知らない姉妹達は、公爵達からベルフェナールでの婚礼の儀を教えられていた。



 ベルフェナールの当主は代々、此処から少しある場所に聳える神殿で婚礼の儀を行うそうで、当日は勿論その神殿に向かうことになる。

 そこでは夫婦になる者同士が誓いを立てるのだが、誓うに当たって儀式を行うという。



 それは、『お互いの寿命を分け合う』という魔法による誓いの儀式であった。



 そのことを当日前に聞いた姉妹達は耳を疑った。そして、当日前に話した公爵達も気不味そうにしていたのを思い出す。


此方ベルフェナールでは当たり前であったから言うのをすっかり忘れてしまっていて……」


 申し訳無さそうに言うラゼイヤは、幾分小さく見えた。



 『寿命を分け合う』ということは、共に生き、共に死ぬことを意味する。
 しかし、人間の姉妹達に対して公爵達は長寿である。つまり、姉妹達の方は少なくとも人間の域を超えた年齢まで公爵達と生涯を添い遂げなければならなくなるのだ。

 当然、両親は、使用人達は、アミーレアにいた頃仲の良かった人達は、自分達よりも早くにこの世を去るだろう。
 それに耐えられるほどの精神力が、彼女達に求められるのだ。



 しかし、姉妹達の中でもいち早く決断を下したのは、エレノアであった。


「大丈夫ですわ!お父様とお母様はいつか私達が看取らなければならないのは代わりありませんし、それに、私達は決して一人になるわけではないのでしょう?」


 エレノアの言葉に、姉妹達は自分の婚約者達に視線を向けた。



 確かに、知る人が亡くなるのは悲しいことだ。だが、それはいつか必ず訪れるお別れに過ぎない。それを考えるのは杞憂というものだ。
 それに、エレノアの言った通り、自分達には共に添い遂げてくれる存在がいるのだから。これ以上心配する必要など無いのだ。



 『愛する者』と共に人生を歩めるだけで、どれほど心強いと思うか。



 姉妹達は、既に覚悟を決めていた。

 その様子に、公爵達も安堵していたようで、皆笑っていた。勿論、バルフレである。



 ただ、儀式については丸く収まったが、実際はこの後が大変であった。





 婚礼の日は、ベルフェナールにいる国民全員が人伝いで知っていた。誰がそんな情報を流したのかは定かではないが、恐らく公爵家でずっと恋路を見守っていたメイド達の犯行であろう。

 その日、公爵家には客人が訪れた。
 客といっても、一人だけではない。

 仕立て屋、宝石屋、花屋、教会の聖歌隊……それ以外にも皆、公爵と令嬢の挙式を盛大に祝うために準備の手伝いをしに来たのだ。

 まさかの来客にも驚いたが、それよりも驚いたのは、皆がそれをで行ったことだ。

 公爵も令嬢も、流石に無償は駄目だと止めようとしたのだが、


「何を仰いますか!公爵様方と御令嬢様方の婚礼なんておめでたいものに金銭を頂くなんてどうかしておりますよ!」

「皆様の幸せは、私達国民の幸せに御座います。ですからどうか、私達からの祝儀と思って受け取ってください」


 と言った感じで、誰も受け取ろうとはしなかったのだ。

 国民が公爵達のことを慕っていたのはあの馬車の件でもわかっていたが、まさかこれほどまでとは思っておらず姉妹達はおろか公爵達も目が点であった。



 そして、挙式や婚礼の準備は国民達のおかげで順調に進んだのだが……





「ラゼイヤ様でしたら、こちらのお召し物が似合うでしょう。色合いは後に合わせますので」

「オリビア様の大人っぽさを際立たせるために露出を少しだけ高くしましょう!肩の部分を開かせて妖艶な感じにさせて……でも持ち前の清楚感は絶対打ち消さないようにしないと!!」


「ゴトリル様はスーツとか堅苦しいものは嫌ですよね。でしたら、東洋の衣装にしましょう。此方は身軽で動きやすいのでゴトリル様のお気に召すと思います」

「クロエ様はやっぱり此方のフリルが絶対似合いますよ!!それと此方の花の髪飾りも!!はあ~可愛らしいですわクロエ様!!」


「ラトーニァ様、どうか動かないでください。これでは採寸ができませんよ」

「ルーナ様のお顔は化粧いらずですわ!こんなに整ったご尊顔今まで見たことありません!!お化粧は薄めにして、ドレスはどうしましょうか!悩みますわ~!!」


「バルフレ様は黒がきっと似合うでしょう。ただ、正装は白でないとなりませんので、装飾に黒を施せば映えると思います」

「エレノア様、そちらのネックレスは?まあ!バルフレ様から!?では、そちらのネックレスが際立つドレスをご用意致しますね!!殿方様からの贈り物なんて素敵ですわ!!」





 丸一日、ドレスやら装飾やらで拘束された公爵と令嬢は、夜になった頃にはやつれてしまっていた。

 その様子を観察していたディトは愉快そうに揶揄っていたが、ラゼイヤから


「婚礼に呼ばれたくないなら笑っていると良い」


 と脅されてようやく黙ったそうな。
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