四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約

話し合いになるはずだったのに

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「申し遅れました。デカート・ガルシアと申します」

「妻のミシリアです」


 父と母、デカートとミシリアは公爵達に改めて挨拶をした。
それに対して公爵達も頭を下げる。


「お初にお目にかかります、デカート辺境伯。ミシリア夫人。ラゼイヤ・ラヴェルトと申します」

「ゴトリルだぜ」

「ラトーニァです……」

「バルフレ」


 それぞれが自己紹介をし、皆ソファに腰を下ろしていく。
 両親との再会で舞い上がっていた姉妹達も、今はとにかく落ち着くことに徹底した。

 出されていた紅茶を飲み、菓子をつまみ、気分を落ち着かせる。落ち着かせ……


「ところで婚約の件なのですが、今はまだなのですか?」

「ええ」

「ならばどうか、是非とも娘達と正式に婚約してはくださらないでしょうか?」


 デカートの発言に、母とエレノアとゴトリルを除くその場にいた全員が噎せた。


「お、お父様!?」

「何を突然言うのですか!?」

「そうですよ!!びっくりしました!!」


 オリビア、ルーナ、クロエは揃ってデカートに苦言するが、当の本人は平気そうに笑っている。


「いやなに、公爵家の皆様は大層親切で頼り甲斐のある方々だからな。それにお似合いな気もするんだが……」


 そう頭をかいて笑う父に、オリビア達は唖然としていた。

 そうだ。デカートは、父は昔からこういう人であった。
 ちょっとおとぼけで、能天気で、それでいて聡い人だった。


「お前達の言いたいことはわかる。元はあの王太子馬鹿がしでかしたことだからな。だが、公爵様と巡り合わせてくれたことだけは感謝している」


 デカートはそう言って菓子に手を伸ばしていた。なんとも暢気のんきな動きでオリビア達は戸惑ってしまう。


「で、ですが、この婚約は……」

「『公爵様方に申し訳無い』だろ?」


 オリビアが言おうとしたことを、デカートは先取りする。


「お前達の考えていることは大体予想がつく。私の娘だからな。確かに、急に嫁いできて受け入れてくださったこと、この領地を保護してくださったこと、それ以外にも恩を返しきれないことが山ほどある。だが、だからこそ双方が望まれたわけではない婚約ではなく、何かしらの形で返したいと思っている。そうじゃないか?」

「……はい」


 デカートが言いたいことを全て言ってしまい、オリビアは肯定の意しか表せなかった。


「オリビアの、お前達の気持ちはよくわかるよ。私だって恩を返したいのだが、領地を守ってくれる方々も皆見返りを求めずで拒まれるから……どうしたものかと考えていたんだ」


 デカートは困った様子でまた頭をかく。よく見る癖であった。
 しかし、不意に思い付いたような表情を浮かべる。これも父の癖で激しい感情表現のようなものだった。


「そこで考えたんだが、ガルシア領をベルフェナールの正式な所有地にして、国の外交を務めるのはどうかな!ベルフェナールの政務はラゼイヤ様が全て担っているそうだから、その手助けでもしたいんだ!だからこそ、私はこの婚約には賛成なんだ!」


 キラキラと目を輝かせている様はさながら子供のようで、デカートは意気揚々としていた。オリビア達はおろか公爵達も固まっている。
 恐らく、公爵達はガルシア領を所有地にするつもりなど毛頭なかったのだろう。あくまでという形での関係を保とうとしていたのかもしれない。だが、保護された側がこれなのだから……


「デカート辺境伯、お言葉は嬉しいのですが、貴方様がそこまでする必要などありませんよ」

「何を言いますか!私はもうアミーレアに何の未練も御座いませんし、何より娘達もいつかは貴方様方の妻になるのですから、将来自分の息子になる方々の国を放っておくことなどできませんよ!」

「いえ、だから先ほどエレノア嬢やオリビア嬢が申されたように、これは正式な婚約ではないのでしてね?」

「でしたら今すぐにでも婚約の準備を!!」

「えー……」


 ラゼイヤが説明するも、デカートはお構い無しに婚約を勧めてくる。流石のラゼイヤもこれには戸惑ってしまう。
 将来の息子……と言ってもデカートより遥かに年上の公爵達であるが、言葉にされるとやはりこそばゆいものがある。

 だが、少し首を振るとラゼイヤはデカートに再び目を向けた。左の目の群衆と共に。


「デカート辺境伯……私共は、見ての通り化物同然の姿をしています。そんな輩に大事な娘様を託すのは、如何なものかと思いません?それに、娘様の御意見も尊重なさった方が宜しいかと。もし婚約するとなれば、この姿を毎日見ることになる。その覚悟がおありでないといけませんよ?」


 先ほどの困惑した声とは打って変わった、澄み渡った音色に姉妹達は黙り込む。
 怒っているわけではないだろうが、有無を言わせぬその声に反射で体が固まってしまったようであった。

 しかし、父は顔色ひとつ変えず、口を開こうとした。

 その時だった。



「公爵様、よろしいでしょうか?」



 母、ミシリアが声を出したのは。
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