四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約

父と母

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「お父様!!お母様!!」


 クロエは目を輝かせながら、応接間へと入ってきた人影二つに抱き着いた。
 抱きつかれた二人も、クロエを拒むことなく抱き寄せる。


「おかえりなさい、クロエ」

「みんなもおかえりなさい」


 優しい声色は、姉妹達が一番よく知っている。



 目の前にいる父と母であった。





「お久しぶりです!お父様!お母様!」


 クロエに触発されてか、エレノアも両親に抱き着いていく。
 父はエレノアの頭を、母はクロエの頭を撫でていた。


「オリビアもルーナも、会いたかったよ」

「……はい」

「……私もです、お父様」


 ルーナも、泣いてはいないものの声は震えていた。
 オリビアも周りの喜びに釣られて泣きそうになってしまったが、公爵達の前だったのもあってなんとか耐えていた。


「君達家族は、本当に仲が良いんだね」


 ラゼイヤがぽそりと呟くと、両親はハッとして公爵達に顔を向ける。その表情は柔らかく、敵意を感じられない。どうやら互いに関係は良好のようであった。
 父は臆することなく、ラゼイヤに近づいた。


「公爵様を差し置いて、申し訳御座いません!」

「いえそんな、家族の再会に水を差す方が烏滸がましいことですよ」

「家族だなんて、皆様も家族同然ではありませんか」

「そうですかね?」


 手紙だけでしか話を交わしたことがないにも関わらず、父とラゼイヤは快く会話していた。
 険悪な仲でなくて姉妹達はホッとしていたが、ふと先程の会話に違和感がよぎった。



「皆様も家族同然」



 皆様?皆様とは……


「お父様?その……」

「うん?どうした、オリビア」

「いえ、少し気になっただけですが、その皆様とは……」

「ああ、そんなことか」


 父は、家族にしか見せない笑みを溢す。その隣で、母も同じように微笑んだ。



「お前達は公爵様と婚約したのだろう?ならば此処にいる皆家族ではないか」



 その言葉に、姉妹達はエレノアを除いて固まってしまった。



 いや、違ってはいない。確かに婚約はしているがそれは『お試しコース』のようなものであって完璧な契約ではなくて、だから明確には婚約とは言えなくて……



 姉妹達は頭の中でそんな思いを巡らせていた。

 婚約はしているが、公爵達はで話を進めていたためにどう話せば良いのかわからない。

 にこにこと笑う両親に、ルーナが目を丸くしたまま口を開く。


「お、お父様、私達は正式に婚約したわけではありません!早とちりしないでください!」


 誤解を解くための弁明でもあったが、解釈を変えると公爵達を拒絶しているようにも見えなくはない。
 しかし、慌てていたルーナは悪意が無いもののその言葉しか出てこなかった。彼女の性格だ。恐らく後で一人反省することだろう。


「何を言っている。正式であろうがなかろうが、婚約は婚約だ。どんなことであれ、婚約者を大切にするのは当たり前のことだろう?」


 だが、父は変わらず笑顔でそう答えたのであった。

 これには誰も口答えできない。
 的を射ているのだ。

 しかし、公爵達の優しさに胡座をかくことが失礼であると考えていた姉妹達は、父親の言葉で幾分か心が軽くなった気がした。
 と同時に、『家族』という単語に公爵達が含まれていることに恥じらいを隠しきれなかった。
 それを言ってのける父親が勇ましい。


「それに、公爵様は私の娘達を助けてくれた恩人のような方だ。何故拒める」



 父の言葉に、姉妹達は何も言えず戸惑っていた。
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