四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約

ふるさと

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 __馬車を降り、目の前に広がる出て行く前と変わらぬ街並みに、姉妹達は歓喜と安心を覚えていた。

 現在、アミーレアから独立した状態であるガルシア領はその繁栄や劣ることなく、街の人達は元気良く歩き回り、働いていた。

 住民皆仕事を失っていないこと、そして顔色が良いことに姉妹達は酷く安堵した。


「ガルシア領の外交はしっかりと動いているよ。と言っても、私達はこの領地の仕組みがまだわからないから貿易しかさせてないのだけど。だから今日その話も兼ねてご両親に会おうとね」


 姉妹達の杞憂を見透かすような言葉で、ラゼイヤは微笑む。


「さぁ、行こうか。あまり長居していると私達を見た住民が驚くだろうからね」





 __馬車から降りてそう遠くない所にガルシア辺境伯……両親の住む邸があった。

 ラヴェルト公爵家の城と比べれば規模も価値も雲泥の差かもしれないが、領地の中では最も広大で豪華な邸宅であった。

 4日ぶりの我が家に姉妹達は心馳せながら帰路に着いた。





「「おかえりなさいませ、お嬢様方」」


 門を抜けて始めに出迎えてくれたのは、邸宅を管理し守る給仕達であった。

 公爵達は初対面だが、姉妹達は顔見知りの者達ばかりであった。皆自分達のことをいつも気にかけてくれた大好きな給仕達なのだ。


「アーニャ!!!」

「お嬢様!!!」


 アーニャという、一番親しかったメイドに真っ先に飛びついたのはクロエだった。


「もう会えないと思ってたわ!!」

「私もです!お嬢様!!!」


 互いに抱擁を交わすその姿は姉妹達にとって見慣れたものであった。


「へー彼奴あんな顔するんだな」


 ゴトリルは不思議そうにクロエの笑顔を眺めている。公爵家にいた時は見せなかった笑顔が新鮮なようだった。


「失礼します」


 と、感動の再会も束の間、初老の執事が公爵達の前へと出る。


「ラヴェルト公爵様方も遥々おいでくださり有難う御座います。どうぞ此方に」


 辺境伯の下で長く務めていた執事は、公爵達の姿を見ても顔を顰めることなく微笑んで中へと案内していく。
 そういえば昔からこの人は肝の座った方だったなぁと、姉妹達は心の中で呟いた。





 __我が家である邸宅の応接間にて、姉妹と公爵はソファに腰掛ける。

 メイド達が用意した紅茶を飲みながら、邸宅の主人が来るのを待っていた。


「君達のご両親とは初めて会うからな。緊張するよ……」

「そんな、緊張なさらなくても」

「いや、するよ」


 ラゼイヤは少し手が震えているようだった。


「そういえば、どんな奴なんだ?おたくらの親父さんとお袋さんはよ?」

「えっと……優しくて、厳しい時もありますけど、素敵な親だと誇りに思える人です!」

「へー……うちの親は厳しいだけだったからなぁ」


 ゴトリルは全くもって緊張していない様子である。安定といえば安定だろうか。


「るるる、ルーナ、ぼ、僕、変じゃない???角とかイ、いろいろ、目立ってるよね?目立っちゃってるよね??どうしよう……」

「だ、大丈夫ですから、落ち着いてください」

「ううううううう、うん」


 ラトーニァは普段通り、落ち着いていなかった。


「…………」

「バルフレ様!彼方に見えます中庭には蓮の池がありますの!!とても綺麗ですのよ!時間がありましたら後で観にいきましょう!きっと気に入りますわ!!」

「…………」


 バルフレはエレノアのお喋りに全く動じなかった。ある意味凄い。

 そうしてそれぞれ待ち時間を潰していた。



 しかし、その時は唐突であった。





「申し訳御座いません。お待たせ致しました」


 聞き覚えのある声と共に、部屋の扉が開かれる。



 そこから入ってきた二つの足音と、クロエがそれに飛びついたのはほぼ同時であった。
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