四人の令嬢と公爵と

オゾン層

文字の大きさ
上 下
42 / 101
婚約

里帰り

しおりを挟む



 __あの夕食から早くも二日経ち、姉妹達は公爵達と共に馬車でガルシア領へと向かっていた。



 流石に全員乗れるほどの馬車はないので、婚約者同士一乗ずつ用意されており、姉妹達はそれぞれの馬車で公爵達と談笑を楽しんでいた。

 と言っても、クロエはゴトリルに抱き締められてそれどころではないし、ルーナも両親と会う前から緊張しているラトーニァを宥めるのに精一杯で、エレノアはバルフレが全く話さないがために馬車の外を眺めて暇を持て余していた。

 そして、オリビアはというと……


「今日は天気もよろしいですね」

「ああ。出かけるのにはうってつけの晴天だね」


 なんとか話を繋いでいた。



 こうして二人きりになるのは初めてではないのだが、馬車の中というのもあってなんとも言えないものがあった。

 たとえそれが異形のものであっても、異性と同じ空間にいることだけで、ロズワート以外との関わりを持ったことがなかったオリビアは十分に戸惑える案件でもあった。

 ただ、オリビアが戸惑っていたのはこれだけではなかった。



 ベルフェナールから馬車を出す際、通り道となる街道には人だかりができていた。

 どうやら公爵達が婚約したことは国内中に知れ渡っていたらしく、その婚約者を見たいがために馬車が通る道に集まっていたのだ。

 しかも相手は隣国のときたもので、珍しいもの見たさの者が多かった。
 馬車が通るたびに民衆は姉妹達の姿を見て驚いていたようであった。
 しかし……


「ラゼイヤ様の婚約者様は大層美しいな!」

「ゴトリル様の婚約者様は小柄で可愛らしい!」

「ラトーニァ様の婚約者様も綺麗だなぁ!」

「バルフレ様の婚約者様も話している姿が愛くるしいな!」


 皆口々にそう言うので姉妹達は恥ずかしくて仕方がなかった。

 挙げ句の果てには「公爵様達が婚約されて本当に良かった!!」と泣き喜びする者達も続出して民衆はある意味混乱状態となっていた。

 余所者である自分達を歓迎してお見送りしてくれたのは嬉しいことであったが、馬車の後ろで大泣きしながら肩を抱き合って喜びを分かち合う大の大人たちを見ると、オリビアは苦笑いしか浮かべなかった。
 それはオリビアだけに限らずラゼイヤも同じようで、大袈裟に喜ぶ民衆を困った目で眺めていた。

 ラゼイヤは以前、国民ですら己達の姿に驚くという話をしたが、それにしては国民からの信頼が厚いように思えた。

 ラゼイヤが言うよりも、国民は公爵達のことを愛してやまないのかもしれない。



「オリビア?」


 そんなことを考えていると、オリビアはラゼイヤの声かけで我に帰った。


「も、申し訳御座いません。少し考え事を」

「いいよ。それより、ほら」


 ラゼイヤが目を向けた方へ、オリビアも見やる。

 そこには、見慣れた街並みが広がっていた。



「着いたよ。君達の故郷ふるさとに」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

[完結]あなた方が呪いと呼ぶそれは本当は呪いではありません

真那月 凜
恋愛
10代前の先祖の血と知識を継いで生まれたため、気味が悪いと恐れられているアリシャナ 左腕と顔の左半分に入れ墨のような模様を持って生まれたため、呪われていると恐れられているエイドリアン 常に孤独とともにあった2人はある日突然、政略結婚させられることになる 100件を超えるお気に入り登録ありがとうございます! 第15回恋愛小説大賞:334位 +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です  カクヨム・なろうでも掲載しております

処理中です...