四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約

夕食

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 __婚約者との交流も終え、姉妹達は昼食ぶりにダイニングへと集まっていた。

 その後公爵達も集まり、朝食時と同じ席で食事を取ることとなった。





「…………」


 ラゼイヤは、皿に乗せられた魚を横目に、令嬢達へと顔を向けていた。

 姉妹達は仲睦まじく話して楽しそうにしている。
 その微笑ましい光景にラゼイヤは口元が緩みそうになったが、淑女達の声に紛れて聞こえる青年の声に顔を顰めた。


「それでそれで?今日はみんなと何したの?」


 軽い口乗りで令嬢達に話しかけているのは、末っ子のディトであった。

 そう、ディトもいるのだ。

 昼食の時は仕事もあっていなかったのだが、夕食の頃には職務も一息ついていたようだ。


「今日ですか?ラゼイヤ様の書斎におりましたが」

「へー!お仕事見てたの?」

「はい」

「ラゼ兄さんのお仕事、どうだった?」

「え……お一人であの量の書類を整理するのは大変だと。ですが、一日で終わらせてしまったので驚きましたわ」

「そう!凄いでしょ?兄さんああいう作業得意だからさ」


 ディトとオリビアが話せば話すほど、ラゼイヤの顔が険しくなる。

 しかし、他の公爵も同じようなものであった。

 ゴトリルは朝食と同じようにたくさん食べ、クロエの皿にもどんどん乗せている。それに困り果てているクロエも仕方なく口にしていた。

 ゴトリルは通常運転であったが、彼以外はそうはいかなかった。

 ラトーニァは誰にも聞こえない声量でずっと何かを呟いている。ルーナが心配して声をかけると我に帰って謝り倒してくるのだが、その後ディトの声を聞くとすぐにまた呟き始め、そして止められるというのを繰り返していた。

 バルフレはいつも通り物言わぬ口だが、その赤い目はしっかりとディトを捉えている。
 エレノアはそんな彼にずっと話しかけているが、彼が顔をそちらへ向けらることはなかった。

 朝食ほどではないが、今にでも騒ぎが起きそうな状況であった。


「……ああ、話し中のところ悪いが、少しいいかな?」


 ラゼイヤの咳払いと共に、公爵と令嬢の視線が傾く。
 先ほどの殺伐とした雰囲気が和らいでいく中、ラゼイヤは口を開く。



「君達のご両親についてだけど、近々挨拶しに行こうと思っているんだ」



 この言葉で、姉妹達全員が目を輝かせた。


「お父様とお母様に会えるのですか!?」


 クロエは皆の前であるにも関わらず子供のようにはしゃいでいる。その姿を見てゴトリルが思わず笑っていたが、誰も咎めるものはいなかった。


「ああ。婚約の挨拶をね」


 ラゼイヤもクロエの喜ぶ姿に微笑みつつ、話を続けた。


「婚約したのに相手方のご両親に挨拶をしないのは失礼だろう?二日後は私達も時間が空くからね。その時に行こうかと思っているし、その伝の手紙も明日出そうと思う」

「兄さん達大丈夫?緊張とかしないでよ?」

「黙っていなさいディト」


 横槍を入れてくるディトに対してラゼイヤは辛辣にも言葉を返す。その時、話を聞いていたオリビアが口を開いた。


「ラゼイヤ様、ひとつよろしいでしょうか?」

「なんだい?」

「その、ただ私が気になっただけなのですが……皆様はこの国の現当主様でありますが、先代の当主様はいらっしゃらないのですか?」


 オリビアの言った先代とは、公爵達の『親』を指しているのであろう。
 それを聞いたラゼイヤは、あぁと思い出したように答えた。


「私達の両親なら既に亡くなっているよ」


 この返しに、姉妹達全員が絶句した。
 そして質問者であるオリビアは血の気が引くのを感じていた。

 公爵達の見た目はわかりにくいものの、自分達よりも5、6ほど上なのだと思い込んでいた。
 だから同じように親もいるのではと考え、ならば此方も挨拶をしなくてはと思ったが故の発言であった。

 まさかその問いが玉砕されるとは考えもしなかった。
 とんだ発言をしたと判断したオリビアは、生きている心地がしなかった。
 公爵達に対して無礼極まり無い自分が恥ずかしく、愚かしくて仕方がなかった。

 しかし、顔色が悪くなっていくオリビアを見かねたラゼイヤが慌てて付け足したのであった。


「そんな顔しないでくれ!両親は寿命で亡くなっているんだよ」

「……寿命、ですか?」

「ああ。もうだいぶ長生きしてね。天寿を全うしていったよ」

「そう、なのですか……」


 そう言われると、何故だか安心感が湧いてくるのを、オリビアは感じていた。
 ただ、その後すぐに疑問を抱いた。


「あの……長生きとは」

「ああ、えっとね……確かに、この姿では君達が勘違いしてしまうのも無理はないか。こう見えて私達もいい歳なんだ。見た目が歳を取りにくいだけでね。だが長生きはする方なんだ。実際、両親も亡くなった時は既に500を越えていたよ」



「「え?」」



 500ごひゃく……この時代ではあまり聞かないであろう年齢に、姉妹達は耳を疑った。


「ごひゃく……とは?」

「まあ、驚くか。でも、此方の国では種族間も多種多様だからね。このくらいの年齢層はいくらでもいるよ」

「は……」


 オリビアも、この時だけは公爵達の前であることを忘れて呆然としていた。

 そして此処まで聞いた以上、についても聞かなければならないと、そう思っていた。


「……ラゼイヤ様、失礼ながら」

「何かな?」

「……皆様の御年齢は、如何程で?」


 オリビアの質問に、ラゼイヤと他の兄弟達は快く返答する。





 あまりに規格外な数字を述べられたもので、姉妹達は淑女らしからぬ大絶叫を上げてしまったのだった。
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