四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約

無口

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 __今が夕刻だとわかったのは、窓から射し込む朝陽が紅く染まり始めたからである。



「バルフレ様」


 離れでバルフレの仕事を見ていたエレノアは、未だ作業机に顔を向けている彼に声をかけた。

 流石のバルフレも、名前を呼ばれたら無視はせずエレノアに顔を向けた。


「もう夕刻ですわ。お城には帰らなくて大丈夫ですの?」

「…………」


 エレノアがそう問うと、バルフレは言葉を返すこともなく机の上に置かれた道具を棚へとしまいだした。
 一通り片付けると、彼は離れの鍵を持って外への扉を開けた。
 ふと、エレノアの方を振り返る。


「早く出ろ」

「あら、ごめんなさい」


 冷たい口調で言い放ったバルフレに対して、エレノアはあっけらかんとした態度でそそくさと離れを出た。
 そして、バルフレは離れの扉を閉めると、しっかりと鍵をかけた。


「行くぞ」


 短い言葉だけ告げて歩き出すバルフレの背後を、エレノアは軽い足取りで着いていった。





「今日は楽しかったですわ!魔法ってあんな風に作ることもできるのですね!」


 帰りの道も、エレノアはバルフレに話しかけていた。バルフレが無反応なのにも関わらず、彼女は延々と違う話をし続けている。


「そういえば、先ほどバルフレ様は何か道具を作ってらしたわね。この国の皆様は魔法が使えるのでしょう?何故魔法の道具を作るのですか?」

「……時々魔法のセンスが壊滅的な奴もいる。そんな輩の補助として扱われることが多い」

「そうなのですね!魔法が使えない方々のためにも道具をお作りになるなんて」

「…………」


 バルフレが喋るのは、エレノアが質問をしてきた時くらいである。しかしそれも短い間だけで、すぐに話は続かなくなる。

 今まで能天気に話し続けていたエレノアも、これには少し疑問を覚えていた。


「バルフレ様」

「…………」

「何故貴方様は何も話さないのですか?」

「…………」

「ずぅっと思っていましたが、バルフレ様はご自分からは一言もお話しませんわよね。どうしてなのですか?」

「…………」


 遂にはエレノアの問いに対しても、バルフレは無言を貫くようになっていた。

 それがエレノアの中で大きくなっていく。


「バルフレ様?」

「…………」


 エレノアが話しかけてもバルフレは無言であったが、しばらくすると歩く方向へ顔を上げた。
 エレノアもつられてそちらを見ると、目的地である城が佇んでいた。


「着いたぞ。お前はダイニングにでも向かっていろ。私もすぐ向かう」

「あ!話逸らしましたわね!まだ終わっていないですよ!」


 そう言ってエレノアはバルフレの方を向いたが、彼は既にいなくなっていた。
 魔法で移動でもしたのであろう。


「……バルフレ様ったら」


 まるで逃げるようにその場を後にしたバルフレに、エレノアは不満を抱いていた。

 しかし、案外可愛い誤魔化し方をするのだなと、後から笑えてしまった。

 普通の一般人が同じようなことをされれば、急に消えたことに驚くのだろうが、エレノアは少し違っていた。


「バルフレ様も子供っぽいところがあるのね」


 エレノアはそう感じていたのだ。



 バルフレは素性を明らかにしない。

 言葉は必要な分だけで殆ど発せず、身の内を明かすこともなく、表情も無を保ったままの彼。

 そんな彼が咄嗟の逃げ道と言わんばかりに消えてしまったのだから、彼女の中では何ともおもしろおかしい話なのである。


「新しい発見ね……なんだか冒険してる気分!」


 気分が高まったエレノアは、鼻歌を歌いながら城に戻っていった。



 バルフレはそれを3階の窓から眺めていた。
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