四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約

勇ましいあなた

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 __訓練場にて。



「よし!今日はここまで。お前らもう帰って良いぞ」

「「はいっ!!」」


長い訓練が終わり、兵士達はそれぞれの持ち場へと帰っていく。

 それを少し離れた休憩場でクロエは眺めていた。


「終わったのかしら。皆様帰っていくわね」


 減っていく人影を横目に、クロエは先刻のことを思い返していた。





 朝食後の訓練の時、クロエは休憩場ではなく少し離れた場所で見学していた。

 やはり軍隊である故、兵士達の訓練風景には迫力があった。

 剣を用いて戦う者、槍を扱う者、何も持たず体術で挑む者。

 それぞれ戦い方は違えど、誰が勝るも劣るもなく互角でせめぎ合う姿には感動すら覚えた。

 しかし、その時事は発生した。


「姫様逃げろ!!」


 ある兵士の呼び声よりも速く、放たれた矢がクロエの目前まで迫ってきていた。

 クロエがそれに気付いたのは兵士に呼ばれてからで、今では遅過ぎた。


(当たる!!)


 そう思った時には、目を瞑ることしかできなかった。



 ……しかし、矢が刺さるような感触は未だに感じない。

 恐る恐る目を開ければ、矢はクロエの額ギリギリで止まっていた。


「危ねぇじゃねぇか!!」


 そう怒号をあげたのは、矢を掴み取っていたゴトリルであった。


「矢をぶちかました奴は何処のどいつだ!?」

「兄貴すんません!!手元が狂いました!!ほんっっっとにすんませんでした!!!!!」


 すぐさま矢を放った兵士が駆けつけ、そのまま流れるようにクロエに向かって土下座したのは今でも覚えている。



 その後兵士はゴトリルから一撃貰ってお咎め無しとなったが、あれは痛そうだったなぁとクロエは思っていた。

 危なかったとはいえど、わざとではないし怪我もしてないから自分は問題無いと考えていた。

 しかし、ゴトリルはそう思っていなかったようだ。


「お前危なそーだし、あっちの休憩場にいた方がいいな」


 ゴトリルはそう言って彼女を抱え……すると、休憩場まで連れて行ってくれた。

 抱っこされたのは不満しかないが、自分のことを心配してくれるのは素直に嬉しかった。

 だから、


「ありがとうございます」


 素直に返した。

 そのせいでまた「可愛い」と言われ頭をわしゃわしゃされたのは少し嫌だったが、心底嫌にはならなかった。





 そうして今に至るのだった。


「おーい!俺達も帰ろうぜー」


 此方に向かってゴトリルが歩いてくる。
 その姿は巨人そのもので、4本の褐色の腕に浮かぶ白い刺青が際立っていた。

 夜に見かけたら、いや、昼に見かけても恐ろしく見える姿であったが、クロエは昨日のような恐怖を感じることはなかった。

 むしろ、「かっこいい」と思っていた。



 訓練の時も、助けてくれた時も、汗水流して戦う兵士達の中で同じように体を動かしていたゴトリルのことが一番「かっこいい」と感じていた。



「ん?どうした、気分でも悪いのか?」

「い、いえ、なんでもありません」


 クロエは咄嗟に顔を伏せた。
 今顔を上げれば、ゴトリルの顔が見える。

 顔を寄せられた時のような羞恥心が、今は少し見ただけでも湧き出す勢いであった。


「じゃあ顔上げろよ。お前の顔が見えねぇ」

「い、今は駄目です」

「は?なんでだ?」

「駄目なものは駄目なんです!!」


 頑なに顔を上げないクロエに、ゴトリルは首を傾げていたが、急に思いついたようにクロエを持ち上げた。


「な、何をなさるんですか!!」

「ほら、これで見える」

「!!」


 クロエを上に掲げる形で抱き抱える。

 するとどうだろう。クロエが見下ろす形でゴトリルと視線が合った。

 間近にあるゴトリルの顔は、クロエの顔を見るなり破顔する。


「やっぱり可愛い顔してんなぁ」

「『可愛い』はやめてと、何度も言ってるではありませんか!!」

「なんでそんなに嫌がるんだよ」


 暴れるクロエを、ゴトリルは抱きしめることで止めた。

 止めたというよりは、止まったの方が正しいであろう。

 全身を包むように抱きしめられ、クロエは言葉を失った。



 あの人の香りが、熱が、鼓動が、

 あの人が近くに



「ご、ゴトリル様……」

「なんだ?」

「どうして、こんな……」

「んー?わかんねぇや。なんか抱きしめたくなったんだよ」


 ゴトリルはそう言ってクロエを抱きしめたまま、城へ続く道に足を進めた。


「離してください……お願いですから」

「嫌だね」


 懇願してもゴトリルは離そうとしなかった。



 クロエは居心地が悪く……なることはなかった。
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