四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約

揺らぎ

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 __所変わってラヴェルト公爵家にて。



 昼時、姉妹達は再びダイニングへと集まり、食事を共にしたが、賑やかなのは相変わらずで唯一朝食と違ったのはディトがいなかったことである。

「ディトは仕事が忙しいから向こうで済ませているよ。いつもそうなんだ」

 とラゼイヤは教えてくれたが、ディトの仕事内容を見ていない姉妹達はそれが不思議で仕方なかった。

 ただ、そんな疑問も忘れて、姉妹達は公爵達との昼食を楽しんでいた。





 __そして夕刻。



 「オリビア。良いかな」


 書類整理を終え、ラゼイヤは本を読んでいたオリビアに話しかける。


「はい。どうなさいましたか」

「いや、丁度今日の分の仕事が終わってね。よかったら夕食まで時間を潰さないか?」

「……喜んでお受けします」


 ラゼイヤからの誘いに、オリビアには断る理由が無かった。





 昨日、皆で茶会をしたテラスにて、ラゼイヤとオリビアは街を眺めていた。

 夕刻の街は明かりを灯し、煌々と輝いている。

 まるで星空が地に降りてきたような光景に、オリビアは感嘆の息を漏らしていた。


「……綺麗ですね」

「ああ。昨日の昼頃の景色も良いが、此処は宵に入ってからも美しいんだ。私の自慢の景色だよ」


 ラゼイヤはそう言って街を優しい目付きで眺めている。

 隣でその横顔を間近で見ていたオリビアは、何故だか街よりもラゼイヤの方が美しいと感じていた。



 ラゼイヤの姿は、公爵達の中で見れば最も人からかけ離れた姿をしている。
 全身から生えた黒い触手も、顔の左側を埋め尽くす目玉の群衆も、あまり良いものとは言えない。

 しかし、基本物腰は柔らかく、姉妹達に対しても優しく接してくれる彼が、オリビアには聖人に見えた。

 政略結婚のような形で隣国に売り渡された令嬢を、嫌な顔一つせず受け入れてくれた公爵達。

 たった2日しか交流していないにも関わらず、オリビアはラゼイヤに心を傾かせようとしていた。

 しかし、無意識にもラゼイヤに触れようとした手を寸出で引っ込める。



(……違う)


 私は、婚約あの時は余り物だった。

 姉妹達が他の殿方に選ばれる中、ラゼイヤ様は私に手を差し伸べてくださった。

 それはきっと、この方がからだ。



「好きな人と婚約できたんだから」



 ディト様が仰っていた言葉も、信じたい。でも、それでも私には自信が持てない。

 だって私には、あの人ロズワートの言う通り魅力が無いのだから。

 自分でも思う。歳を取ってみすぼらしくなった令嬢を進んで婚約者にする人などいないでしょうに。

 私はラゼイヤ様のに救われただけに過ぎないのだから。

 その優しさにつけ込むなんて……甘えるなんてもってのほかだ。

 でも、何故だろう。

 それでもこの方のことを……



「オリビア?」


 不意にラゼイヤに顔を覗かれ、オリビアは小さな悲鳴をあげた。

 ラゼイヤの顔を見たからではない。
 彼がということに恥ずかしくなったからであった。


「な、何でもありません。それより、そろそろ戻りませんか?」

「ああ、そうだね。皆も帰ってきているだろう」


 ラゼイヤはそう言うと、オリビアに手を差し出す。


「さあ、行こうか」

「……はい」



 握られた手の温度を悟られるのが、これほど恐ろしいことはなかった。
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