四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約

ダイニングへ

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「「オリビア様、それでは参りましょう」」


 満足そうに笑うメイド二人が進む道を、オリビアは着いて歩いていく。その顔は、心なしかやつれていた。

 あの後、オリビアに着せるドレスについて言い争う二人を宥めようとした結果、全てのドレスを試着させられた挙句、決まったら決まったで今度は髪型と化粧で論争になり大変だったのだ。
 渦中にいたオリビアにはどうしようもなく、二人の着せ替え人形としてなすがままであった。
 それよりクローゼットの中に入っていたあの大量のドレスやドレッサーの前に置かれた高価そうな化粧道具は一体何だったのかも気になる。

 しかし、朝から既に疲れた頭ではまとめようがなく、オリビアは二人に着いて行くことしかできなかった。





 広々としたダイニングに入ると、既に公爵達が席についていた。

 長方形のダイニングテーブルにはパンとスープが置かれ、他にも様々な料理が置かれている。テーブルの両側には椅子が計8つ並べられており、その片側の列に公爵達は並んで座っていた。もう片方の席にはまだ誰もおらず、姉妹達で一番乗りはオリビアであった。

 入室したオリビアに公爵達はすぐに気付いて顔を向けたが、オリビアを視界に入れると顔はそのままで皆固まってしまった。

 ラゼイヤはオリビアに微笑みかけてようとしていたらしく、口角が上に引きつったまま硬直している。

 待ちきれず先に朝食のパンを囓っていたゴトリルはパンを犬のように口に咥えたままポカンとしていた。

 ラトーニァは見るからにわかるほど挙動不審になっている。それはもう、見るからに。

 唯一動じずオリビアを凝視していたのがバルフレであった。凝視はしている。


(どうしたのかしら。私の顔に何かついてる?でも、そしたらルクレとライラが気付くでしょうし……何か不手際をしてしまったかしら?)


 オリビアは自身の容姿を確認したのはドレッサーの鏡が最後である。
 その時は淡い茶色のドレスに身を包み、髪を編み込んで花飾りを付けた姿をしていた。

 自分が見た時はなんとも思わなかったが、公爵達の様子を見てオリビアは急激に不安を募らせた。
 しかし、咥えていたパンを丸呑みにしたゴトリルが放った一言でそれが杞憂であったことを悟る。


「オリビア!お前急にキレイになったな!!変身魔法でも覚えたのか?」


 朝一番、男特有の野太い声がダイニングに響く。そのすぐ後に、パチンという乾いた音が響いた。


「痛っ!?何すんだよ兄貴!」

「言い方を考えろゴトリル。女性に対して失礼だぞ」

「???…だってすげーキレイになってんだぜ?昨日と全く違うから変身魔法とか使ったんじゃねぇかなぁって……何が駄目だった?」

「……だからお前はクロエ令嬢に避けられるんだ」

「いってー!!二度も殴んなよ!!」


 スナップを効かせたラゼイヤの拳が問答無用でゴトリルの頭を叩いており、ダイニングが一時的に騒然としていたが、オリビアが呆然としていることに気付くとラゼイヤは拳を下ろし、咳払いをした。


「すまないね。騒いでしまって」

「い、いえ……おはようございます」


 オリビアが朝の挨拶をし、頭を下げると、ラゼイヤは今度こそ微笑んでみせた。


「おはよう。昨日はよく眠れたかい?」

「はい。お陰様で」


 挨拶を交わした後、オリビアはラゼイヤと向かい合う椅子に腰を下ろした。ダイニングに案内してくれたメイド二人は魔法を使ったのだろう、既にいなくなっていた。
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