四人の令嬢と公爵と

オゾン層

文字の大きさ
上 下
18 / 101
婚約

醜悪

しおりを挟む



「君達は、私達の姿をどう思う」


 ラゼイヤの言葉に、エレノア以外の姉妹が固まった。
 皆が自分のお相手に改めて目を向ける。

 公爵達は、客観的に見ても異形と捉えられる姿をしている。気持ち悪くないといえば、嘘になる。

 茶会の際も、クロエはゴトリルの屈強な姿におののいていた。引き締まった四つの手腕は自分など簡単に潰せそうで、お姫様抱っこされた時は羞恥心もあったが同時に恐怖も感じていた。

 ルーナもラトーニァに指名された時、何故自分なのかという疑問と終始挙動不審なラトーニァに僅かながらも不安を抱いていた。なんせ目からは角が生えており視線が何処かもわからない。目を合わせることなんて物理的にも不可能でルーナは意思疎通の不自由さに戸惑っていた。

 オリビアはお相手となったラゼイヤに対して、猜疑心しか湧かなかった。最も、彼女が彼を信用できなかったのは、見た目であった。
 蠢く目玉の群れと黒い触手は確実にオリビアへ不快感を与えていた。どれだけ丁寧な話し方でも、親切な態度を表しても、それら全てを相殺できるほどの破壊力があった。
 今まで顔に出さないよう平然を装っていたオリビアも、ラゼイヤの顔が視界に映るたび背筋が凍る感覚に襲われた。

 唯一、公爵達に対して何も感じていなかったのがエレノアである。
 エレノアは見た目で物事を判断するような人物ではなかった。故に今この場で最も望みがあるのも彼女であった。
 実際、エレノアの婚約者となったバルフレは公爵達の中でも容姿は整っている方であったが、肌に浮かび上がるヒビのような黒い痣に類似した模様は近くで見ると気味が悪く、また、深紅に染まった双眸も異質であることを際立たせていた。
 しかし、それに全く動じず自ら話しかけていくエレノアほどの精神力があれば、結婚後の心配も少ないと言える。

 だが、彼女以外の姉妹は今のお相手の姿に抵抗感がある限り、1年後に得られるものは『上辺だけの幸せ』か『身寄りの無い平穏』のどちらかである。

 そしてもしも、もしも前者を選ぼうものなら……ラゼイヤはそれを危惧していたのだ。


「ガルシア令嬢。私は、君達の幸せを何よりも望んでいる。憐れな君達に、報われるべき君らに。恩着せがましいと思ってくれても構わないよ。これが私の流儀みたいなものだからね……なんだか詩的になってしまったな」


 ラゼイヤは己の言葉に照れているようだが、紅を差した顔は殆ど目玉で隠れていた。
 ただ、ラゼイヤの言葉に嘘偽りは無いようで、本気でそう思ってくれているのは姉妹達も理解できた。


「こんな醜い私達だが、こうして来てくれただけでも感謝したい。私達はそのお礼をしたいだけ……こんな理由じゃ駄目かな?」


 悪戯に笑うラゼイヤを間近で見たオリビアは、不快感とはまた別の感覚に襲われた。
 背筋が凍るのとはまた違う、むしろ温かなるような真逆の感覚に、オリビアは動揺を隠せなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

見捨てられたのは私

梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。 ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

【完結】身代わり令嬢の華麗なる復讐

仲村 嘉高
恋愛
「お前を愛する事は無い」 婚約者としての初顔合わせで、フェデリーカ・ティツィアーノは開口一番にそう告げられた。 相手は侯爵家令息であり、フェデリーカは伯爵家令嬢である。 この場で異を唱える事など出来ようか。 無言のフェデリーカを見て了承と受け取ったのか、婚約者のスティーグ・ベッラノーヴァは満足気に笑い、立ち去った。 「一応政略結婚だけど、断れない程じゃないのよね」 フェデリーカが首を傾げ、愚かな婚約者を眺める。 「せっかくなので、慰謝料たんまり貰いましょうか」 とてもとても美しい笑みを浮かべた。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

処理中です...