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婚約
醜悪
しおりを挟む「君達は、私達の姿をどう思う」
ラゼイヤの言葉に、エレノア以外の姉妹が固まった。
皆が自分のお相手に改めて目を向ける。
公爵達は、客観的に見ても異形と捉えられる姿をしている。気持ち悪くないといえば、嘘になる。
茶会の際も、クロエはゴトリルの屈強な姿に慄いていた。引き締まった四つの手腕は自分など簡単に潰せそうで、お姫様抱っこされた時は羞恥心もあったが同時に恐怖も感じていた。
ルーナもラトーニァに指名された時、何故自分なのかという疑問と終始挙動不審なラトーニァに僅かながらも不安を抱いていた。なんせ目からは角が生えており視線が何処かもわからない。目を合わせることなんて物理的にも不可能でルーナは意思疎通の不自由さに戸惑っていた。
オリビアはお相手となったラゼイヤに対して、猜疑心しか湧かなかった。最も、彼女が彼を信用できなかったのは、見た目であった。
蠢く目玉の群れと黒い触手は確実にオリビアへ不快感を与えていた。どれだけ丁寧な話し方でも、親切な態度を表しても、それら全てを相殺できるほどの破壊力があった。
今まで顔に出さないよう平然を装っていたオリビアも、ラゼイヤの顔が視界に映るたび背筋が凍る感覚に襲われた。
唯一、公爵達に対して良い意味で何も感じていなかったのがエレノアである。
エレノアは見た目で物事を判断するような人物ではなかった。故に今この場で最も望みがあるのも彼女であった。
実際、エレノアの婚約者となったバルフレは公爵達の中でも容姿は整っている方であったが、肌に浮かび上がるヒビのような黒い痣に類似した模様は近くで見ると気味が悪く、また、深紅に染まった双眸も異質であることを際立たせていた。
しかし、それに全く動じず自ら話しかけていくエレノアほどの精神力があれば、結婚後の心配も少ないと言える。
だが、彼女以外の姉妹は今のお相手の姿に抵抗感がある限り、1年後に得られるものは『上辺だけの幸せ』か『身寄りの無い平穏』のどちらかである。
そしてもしも、もしも前者を選ぼうものなら……ラゼイヤはそれを危惧していたのだ。
「ガルシア令嬢。私は、君達の幸せを何よりも望んでいる。憐れな君達に、報われるべき君らに。恩着せがましいと思ってくれても構わないよ。これが私の流儀みたいなものだからね……なんだか詩的になってしまったな」
ラゼイヤは己の言葉に照れているようだが、紅を差した顔は殆ど目玉で隠れていた。
ただ、ラゼイヤの言葉に嘘偽りは無いようで、本気でそう思ってくれているのは姉妹達も理解できた。
「こんな醜い私達だが、こうして来てくれただけでも感謝したい。私達はそのお礼をしたいだけ……こんな理由じゃ駄目かな?」
悪戯に笑うラゼイヤを間近で見たオリビアは、不快感とはまた別の感覚に襲われた。
背筋が凍るのとはまた違う、むしろ温かなるような真逆の感覚に、オリビアは動揺を隠せなかった。
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