四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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婚約

猶予

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 ……あれだけ騒がしかった茶会もひと段落し、今は皆落ち着いてお茶を飲んでいる。

 ルーナは菓子をラトーニァと分けて美味しくいただいており、エレノアも話し疲れたようで喉を潤すために紅茶を何度もお代わりしている。クロエはまだ顔が赤いが、冷静さは取り戻したようでゴトリルが近くにいても喚かなくなった……というか諦めていた。
 公爵達も皆今はゆっくりと茶会を楽しんでいる。バルフレは終始黙ったままだったが。

 ゆったりとした雰囲気の中、ラゼイヤは見計らったように口を開く。


「さてと、それで……茶会を楽しんでいるところ悪いが、これからのことについて少し話さないか?」


 ラゼイヤの言葉に、姉妹達はカップに伸ばした手を止める。

 婚約は確かに成立した。しかし、一番重要な部分を決め忘れていたのだ。


「……婚約期間、についてで御座いますね」

「その通り。今のうちに決めておかないと後々ややこしくなるだろうからね」


 オリビアの回答にラゼイヤは笑って応えた。

 婚約が決まったということは、いつかは結婚して夫婦となる。しかし、それまでの猶予をまだ決めていなかった。


「君達は前の婚約者とはどのくらいだったのかな?」

「ロズワート様とは、『クロエが20歳になった年に婚約者の中から結婚相手を選ぶ』……という契約を結んでいました」

「成る程。クロエ嬢は今いくつかな?」

「私ですか?今年で19になりました」

「そうかい……ならこうしないか?





 今から1年後に結婚を決めるというのは」


 ラゼイヤの発案に、エレノア以外の姉妹が見てわかるほどに動揺した。

 今から1年後……ロズワートを奪ったアレッサと同じ期間であることに、姉妹達は焦りを隠せなかった。

 10年の歳月を得てもお相手一人すら振り向かせられなかった自分達が、たった1年で婚約相手に相応しい者になれるかという不安が強かった。
 ましてや婚約相手も突発的に決まったもので、自分達にはまだ相手と添い遂げる覚悟も無かった。ゴトリルに気に入られたクロエですら、楽観的に婚約を見据えていたエレノアでも、結婚となると少しは考える。ルーナもオリビアも、同じ考えであった。

 その感情を汲み取ったのか定かではないが、ラゼイヤは姉妹達を安心させるように、笑ってみせた。


「なに、焦らせるつもりはないんだ。ただ1年もあれば私達の相性もよくわかるだろうし、もし気が合わなかった場合でもまだ対処が効くだろう?そのための1年間だよ」

「……と、申しますと」

「考え直す期間さ。険悪であれば結婚しても苦痛だろう?だからこれは、『破棄を前提とした婚約』と捉えてくれてもいい。勿論、先ほども言ったが破棄後の生活もしっかり保証する。何処ぞの誰かさんのように後先考えず他所へ売り飛ばすような真似は絶対しないよ。私達は、君らの意見を尊重する」


 ラゼイヤの言った「何処ぞの誰かさん」とは恐らくロズワートのことだろうが、姉妹達はそんなことよりもそこまでしようとする公爵の考えを理解できなかった。


「何故、破棄を前提にしなければならないのですか」


 すかさずオリビアが問いかけたが、ラゼイヤは余裕そうに笑っていた。

 否、あれは諦めの着いた顔だろうか。
 あの寂しそうな顔は。


「そんなの……君達はもうわかりきっているんじゃないかな?」
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