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事の発端
一方その頃……
しおりを挟むアミーレア王国
王宮内を駆け足で走り抜け、玉座の間に聳える扉を大袈裟に開ける者がいた。
「ロズワート!!」
「父上!」
アルーミアの現国王、アグナス王。
国の最高権利者である彼が、取り乱した様子で目の前に現れたのもあり、ロズワートは隣の玉座に座っていたアレッサとの会話を中断し、視線を体ごとアグナスへと向けた。
「父上、どうなさったのですか?顔色も悪いようですし」
「ロズワート、貴様、ガルシア令嬢との婚約を解消したそうではないか!?」
「ガルシア?ああ……」
そういえばそんな奴らがいたなと、ロズワートは片隅に覚えていた。
「解消しましたよ。何故それを父上が?先ほどまで外交での取引をしていたのでは?」
「報告が来たから此処まで戻ったんだ!!それより、ガルシア令嬢は一体……」
「ご安心を。彼女達なら今頃ベルフェナールで公爵様達と仲良くしていることでしょうし」
「……ベルフェナール、だと?」
隣国の名前を聞いた途端、アグナスの顔色がますます悪くなった。
「どういうことだ!?説明しろ!!」
「言った通りですよ。彼女達とは婚約を解消しましたが、そのままでは可哀想でしょう?だから隣国のベルフェナールにいるラヴェルト公爵家に縁談を申し込んであげたのですよ」
「なん、だと……!?」
「それにラヴェルト公爵家が婚約すれば、ベルフェナールとの繋がりは強くなり、我が国はより繁栄されるかと。なんせあの強豪国ですから」
「ガルシア辺境伯はなんと!?」
「知りません。遠征の手配は王宮でしてしまったので。ですが気にする必要は無いのでは?たかが辺境伯の位です。むしろ公爵家に嫁いだ方が辺境伯も喜ぶと思いますよ」
「で、では、辺境伯には何も伝えていないということか!?」
「いえ、先ほど使いの者を送りましたよ。伝える必要など無いと思いますけど。念の為に」
「そんな……まさか…………」
ロズワートは名案だと思わんばかりに言ったが、全て聞き終えたアグナスはわなわなと震えていた。
「……父上?どうしたのですか?」
「……ロズワート、貴様!自分が一体何をしでかしたのかわからんのか!?」
途端、顔を真っ赤にして激昂するアグナスに、ロズワートは初めて動揺した。
「ち、父上?」
「王国の安泰を願って儂は貴様にガルシア令嬢を婚約候補とさせたというのに、貴様と言う奴は!!」
「な、何のことですか?たかが辺境伯の田舎娘ではないですか?」
「何を勘違いしておるのだ貴様は!!」
「っ……」
アグナスの気迫に押され、ロズワートは口を噤む。あまりの怒り具合にロズワートは困惑していた。
アグナスは怒りが次々とこみ上げてくるようで、鬼神の顔がより険しくなる。
「ガルシア辺境伯はな、この国と他国との貿易を務める重大な役割を果たしているのだぞ!儂が先の間までいた外交も辺境伯が用意してくれたものだ!辺境伯のお陰で自国がどれだけ潤っていると思っておるのだ!?」
「は?……辺境伯がそんなことを?」
「それにガルシア令嬢の父親であるデカート辺境伯は『令嬢達の中から婚約者に選ばれなかった場合に次の相手を保証する』という条件で姉妹全員を候補者として譲ってくれたというのに……貴様はそれを無下にしおって!!」
「な、そんな条件聞いてませんよ父上!」
「10年前の顔合わせの時に説明したではないか!忘れたのかこの馬鹿者が!!」
「うぅ……」
当時、15歳であったロズワートは確かに顔合わせの時、双方の父親が話し込んでいるのを見ていたからわかる。しかし、その内容までは興味が無く、全て聞き流していたのも事実だ。
まさかそれが今痛手になるとは思わなかった。
「まさか全員と婚約破棄など……ましてや無理矢理隣国に嫁がせるなど、これでは儂らが辺境伯を裏切ったも同然……」
アグナスは顔を赤くしたり青くしたりと忙しない。しかし、それでもまだ分からず屋のロズワートは口を開いた。
「ならば、ガルシア辺境伯の務めを私がすればいい!それなら問題無いでしょう!?」
「阿保か!?ガルシア辺境伯が今までどれほどの激務をこなしてきたと思っておる!?貴様に務まるわけがあるまい!!それに後継はどうするのだ!?国王を目指している貴様が軽々しく婚約破棄などせねば……」
「そのことについてならご心配無用です!私にはアレッサ令嬢がおりますので!」
ロズワートがそう言うと、隣にいたアレッサはあの微笑ましい顔をアグナスに向ける。しかし、アグナスはアレッサをひと睨みすると、再びロズワートに向けて叫んだ。
「ロズワート!!ガルシア令嬢をベルフェナールに送ったということは!!縁談の話も向こうに伝わっているということだな!?」
「は、はい。あの令嬢達が着く前には手紙が届いているかと」
「手紙の内容はどうした!?何と書いたのだ!?ガルシア辺境伯に送った手紙も含めて全て説明しろ!!」
「は、はい!」
アグナスに言われるまま、ロズワートはラヴェルト公爵家とガルシア辺境伯に送った手紙の内容を嘘偽り無く話した。
報告後、アグナスが鬼の形相でロズワートに右ストレートを打ち込むまであと2秒。
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