四人の令嬢と公爵と

オゾン層

文字の大きさ
上 下
15 / 101
婚約

案内

しおりを挟む



__________


 ところ代わり、ベルフェナールの公爵家にて婚約が無事(?)成立した姉妹達は、公爵の敷地である城内を婚約者達に案内してもらっていた。


「この中庭は季節ごとに違う花が咲くから君達もきっと飽きないはずだ。それで彼方には池があってね……」


 親切に説明も含めて案内してくれているのはオリビアの婚約者となったラゼイヤである。
 婚約が成立してからというもの、ラゼイヤはオリビアの手を離さずしっかりと付き添ってくれている。エスコートは申し分無く、距離感も丁度良い。しかし、今までロズワートにしてもらえなかったことをされていたオリビアは、顔には出さないものの困惑していた。

 それは、他の姉妹も同じだった。

 ルーナも、ラトーニァがおずおずと差し出してきた手を遠慮するわけにはいかず、触れ合う程度の繋ぎ方でエスコートされている。

 エレノアもバルフレと手を繋いでいるが、それよりも周りの景色に夢中なようでバルフレに意識が向いておらず、バルフレも真顔のまま何処も見ていないようだった。

 そしてクロエは、婚約者であるゴトリルにエスコートされていた。
 ……お姫様抱っこで。


「……ゴトリル様、どうか降ろしてください」

「え?なんで?」

「恥ずかしいですわ……」


 顔を真っ赤にして、消えかけた声で懇願するクロエであったが、上機嫌なゴトリルは降ろしてくれそうになかった。





 ある程度歩いたところで、城外を見渡せるテラスのような場所に着いた。
 石畳が敷かれたその場所からは、自分達が先ほど通ったであろう街道とその全体が見渡せる。
 活気に溢れていた街は、遠くから見ても美しく感じた。


「此処は私達のお気に入りでね。良かったら此処で休憩でもしないかい?城内は広いからね。歩き疲れただろう……ギルバート」

「はい。主人あるじ様」

「この前手に入れた茶菓子があっただろう?お茶と一緒に持ってきておくれ」

「畏まりました」


 ラゼイヤに名を呼ばれたギルバートは、まるで元々そこにいたかのように、ラゼイヤの隣から現れた後、再び姿を消した。


 「えっ、ぎ、ギルバート様!?いつからそこにいらしたの?って、もういませんし!!」


 顔を赤くしたままだったクロエもギルバートの存在には驚き、他の姉妹達も困惑していた。しかし、公爵達は慣れた様子でやり取りしていたところ、今回だけではないのだろう。
 動揺しているクロエを、ゴトリルは安心させるように抱え直し、こう言った。


「ありゃギルバートのだ。彼奴は何処にでも一瞬で行けるんだぜ?今みたいによ」

「ま、魔法……?」


 「魔法」……聞き慣れない言葉に、姉妹達は疑問しか抱かなかった。ただ、王妃教育の際に他国に関する授業で聞いたことはあった。


「魔法は、君達の国には無かったはずだね。私達の国では日常的なものなのだよ」


 困惑している姉妹に、ラゼイヤは手をかざす。

 すると、掌からたくさんの花弁が生まれ、突如巻き起こった風に攫われた。
 その光景が美しく、隣で見ていたオリビアは目を奪われていた。


「こんな感じで、私達は皆魔法を身に付けている。今のは一般的なもので、中には自分自身が最も得意とする魔法もあってね、それは生まれつき身に付けているものだから得意というのもあるけど」

「……あの、何故この国の方々は魔法を?」

「まぁ、種族が皆人間ではないからね。たまに遺伝の関係で魔法を使えない者もいるが、大抵は皆使えるよ。私達も使える種族らしいが、長い間公爵家は続いていたから今更何の種族かなんて覚えてはいないよ」


 そう言うと今度は手の中で光を操ってみせた。
 魔法とは多種多様なものらしい。しかし、ラゼイヤは一つ気になることを言っていた。


「質問をよろしいでしょうか?」

「何かな?オリビア」

「先ほど、皆様が生まれつき持っている魔法があると仰ってましたが、公爵様方は如何様な魔法を?」

「それかい?そうだね……」


 オリビアの質問に、ラゼイヤは少し悩んだ後……


「今は秘密にしておくよ。私達のはそう易々と出して良い魔法ではないからね」


 笑って誤魔化した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

【完結】あの子の代わり

野村にれ
恋愛
突然、しばらく会っていなかった従姉妹の婚約者と、 婚約するように言われたベルアンジュ・ソアリ。 ソアリ伯爵家は持病を持つ妹・キャリーヌを中心に回っている。 18歳のベルアンジュに婚約者がいないのも、 キャリーヌにいないからという理由だったが、 今回は両親も断ることが出来なかった。 この婚約でベルアンジュの人生は回り始める。

処理中です...