四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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事の発端

我慢の限界

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 クロエは、公爵御令息と出会うまでずっと我慢していた。

 婚約候補者として努力し続けた10年間。その全てを水泡に帰された挙句他所の国へ売られた仕打を、許せるわけがなかった。
 もしあの時姉妹達がいなければ、クロエは不敬とわかっていてもロズワートに掴みかかっていただろう。

 クロエは昔から、男勝りだった。
 子供の頃は女の子がするような遊びを好まず、知り合いの貴族の御令息と鬼ごっこやかくれんぼなどをして遊んでいた。
 とにかく活発的で行動力のあるクロエは、9歳の頃にロズワートの婚約候補にされた時、その性格を極力抑えて王妃教育に勤しむようになった。それは婚約に持ち込んでくれた国王や両親への恩返しのつもりであり、国の未来のためでもあった。しかし、ロズワートとはその頃から関係が緊迫しており、活気に溢れた彼女をロズワートが嫌厭していたこともクロエは勘付いていた。
 そしてクロエも、優柔不断で女々しいロズワートのことをあまりよく思っていなかった。

 だからこそ、婚約を解消された時はこうなるだろうと予測していた。しかし、姉達まで解消された上に全員揃って新たな縁談を強制的に持ち込まれるとは思ってもいなかった。



 __自分とは相性が悪かったとして、何故お姉様達も婚約解消されているの?お姉様達は何も悪くないのに……



 そしてたった1年でロズワートの心を射抜いたアレッサを見た時、アレッサに対する悔しさよりも、ロズワートに対する不信感が勝った。
 この時クロエは、ロズワートのことを既に人として見れなくなっていた。





 そして今、公爵御令息の前で我慢していた感情が、涙と嗚咽になって全て溢れ出てしまっている。
 こうなってしまってはクロエ自身でも止められない。涙は次々に頬を伝い、抑えようとした声も漏れてしまう。
 公爵御令息の目の前でこのような失態を晒したことを、クロエは止められなくなった感情の片隅に留めていた。


「……っ、申し、わけ、ございませ…………」


 クロエは涙ながらにも謝罪を告げようとしたが、その全てが喉元で留まってしまう。

 鬱憤をぶちまけられた公爵達は何も悪くない。彼らは婚約者が来るとしか聞いていないのだから、彼らも実質被害者である。

 クロエは何度も涙を拭ったが、それでも涙が止まることはなく、王宮からの報告を聞くためだけに使用人達から施された化粧も崩れてしまっていた。ぐちゃぐちゃになった顔をクロエは公爵達に見せないよう、両手で覆い隠し、再び咽び泣いた。
 此処にロズワートがいたのなら、「泣いたところで変わらない」と一蹴していただろう。事情を知らない者達ならば、「泣くほどのことか」と思われていただろう。



 しかし、そんなクロエにかけられた言葉は、意外なもので意外な人物からだった。
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