四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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事の発端

化物公爵

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 公爵と紹介された者達を見て、姉妹達は絶句した。
彼らが皆もてなしとして最低限のおしゃれをしているのは何となく理解できた。しかし、問題はその容姿にあった。





 公爵としての正装に身を包み、顔の左半分は無数の目玉で覆われており全てギョロギョロと蠢いている、全身黒い触手で覆われた紫の髪の男。


「ラゼイヤ・ラヴェルトと申します」


 男は落ち着いた様子でそう名乗った。



 オークやゴブリンの兵によく見かける戦闘部族のような装飾を身につけ、筋骨隆々で背も2mは軽く超えており、褐色肌で四つの手腕に白の刺青を入れた麻色の髪の男。


「俺はゴトリルだ!」


 男は高らかにそう名乗った。



 シルク製でフリルをふんだんにあしらったドレスのようなブラウスと黒いズボン、両目から山羊に似た紺色の角を生やした、全身に薔薇といばらを纏う銀髪の男。


「………ぁ…ら、ラトーニァ……」


 男は今にも泣きそうな声でそう名乗った。



 全身黒一色の貴族服に袖を通し、血のように赤い瞳と白肌に黒いヒビのような模様を這わせた黒髪の男。


「バルフレ・ラヴェルト」


 男は表情1つ変えずにそう名乗った。





 名乗り終えた公爵達に続いて、姉妹達も恐る恐る立ち上がる。


「ラヴェルト公爵様。御紹介恐れ入ります。私はガルシア辺境伯長女のオリビアに御座います」

「次女のルーナに御座います」

「三女のエレノアでありますわ」

「す、末っ子のクロエに御座います……」


 順番に自己紹介したが、皆一貫して声が震えており、頭も深々と下げている。皆、公爵達の姿に恐れ慄いていたからである。
 否、エレノアだけは顔を少し上げ、不思議そうに公爵達をまじまじと見つめていた。それに気付いたクロエが慌ててエレノアの肩を叩き、注意を促して頭を下げさせた。


「エレノア姉様!いけませんよそんなに見入るのは!失礼です!」

「あら、ごめんなさい」


 エレノアはいつもこのような調子であったため、妹であるクロエは姉であるエレノアをよく心配していた。

 それを一部始終見ていたラゼイヤとゴトリルは笑っていたが、ラトーニァはおろおろと動揺している様を見せ、バルフレはエレノアを凝視していた。
 クロエだけがエレノアに向けられたその視線に気付き、その赤い瞳にクロエは怯えていた。
 しばらく姉妹達がそうしていると、ラゼイヤの穏やかな声が聞こえてきた。


「ガルシア御令嬢、どうか頭をお上げください。貴女様御一行は我が国ベルフェナールに遥々お越しくださった婚約者様にあるのですから、どうか気を楽にしてください」


 と言われても、今までに見た中で一番迫力のある4人組を前にすると、誰でもこのような行動を取ってしまうものである。
 姉妹達はゆっくりと姿勢を正し、公爵一行と顔を合わせた。
 誰もかれもが恐ろしい姿だが、敵意は感じられない。むしろこちらに友好的でもあった。
 ラゼイヤとゴトリルのみだが……


「にしても、珍しいこともあるもんだなぁ」


 ふと、ゴトリルが口を開く。


「俺達に縁談を申し込みたいだなんて物好きな令嬢様がいるなんてよ」


 その言葉に、姉妹は顔を顰めた。
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