四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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事の発端

公爵家

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 程なくして、馬車はベルフェナールの国内へと入っていった。

 街では自分達とは全く違った姿形の種族が行き来している。
 獣人、ゴブリン、オーク、エルフなど、多種にわたる存在達は屋台を開く者、教会へ向かう者、酒場で飲み明かす者などで溢れかえっており、皆意気揚々として賑やかだった。


「凄いですわ!見たことのない種族の方々がこんなに……」


 クロエは物珍しそうに外を眺めている。


「私夢の中で見たことありますわ!皆様陽気で話しているのがとても楽しかったですの!もしかして正夢かしら?」


 エレノアはさっきまで悩んでいたことを忘れて先日見た夢を思い出している。


「私達のいた国よりも活気に溢れておりますわね」


 ルーナは感心した様子でこちらに気付いた子供に会釈していた。


「そうですね……とても素敵な街ですこと」


 不安に押しつぶされそうになっていたオリビアは、外の景色を見て心の底からそう感じていた。





__________



 やがて街を抜けると、目の前には豪壮な城が現れた。王宮のような絢爛豪華な城ではなく、なんとも年季の入っていそうな、しかしながら広大で厳かな雰囲気を匂わせていた。

 一行を連れた馬車はその城の門前で止まると、ガハルが馬車の扉を開けてくれた。御者は長い背中を折り曲げて馬車の中を確認すると、しわくちゃの顔をニコッと歪ませた。まるで敵意は無いと言うように。


「ガルシア御令嬢様。大変遅くなりました。こちらがラヴェルト公爵家に御座います。入り口は既に開いておりますのでどうぞ中にお入りください」


 ガハルは優しい声でそう言うと、馬車の側で姉妹達が降りてくるのを見守っていた。
 あまりに親切な対応に姉妹達は待たせてならぬよう足早に降りようとしたが、何せ王宮から急遽出た身。外出用のドレスは質素であったものの幅を取り、ヒールの高い靴も馬車の台を降りるのには危なっかしいものだった。
 しかし、それを見兼ねたガハルはすかさず手を取り、重々に注意を払って姉妹達を1人ずつ降ろしてくれた。


「あ、ありがとうございます。お手を煩わしてしまい申し訳ございません」

「いえいえ、こちらこそ。皆様の補助をするのは私の役目でもありましたというのに、遅れてしまい面目御座いません。あちらに見えますのが入り口に御座います。ささ、どうぞ」


 ガハルは割れ物を扱うよう丁重に姉妹達を入り口へ案内し、そこで御者と同じ黒いスーツを着た男に出会った。


「ガルシア御令嬢一行様。よくぞお越しくださいました。私は公爵家の執事長でギルバートと申します。以後お見知り置きを」


 男、ギルバートは姉妹達に深々とお辞儀をしてみせた。


「おいでくださったばかりで申し訳ありませんが、今から公爵家の皆様にお会いしてほしいのです」

 ギルバートはそう言って、姉妹達を城の中へと案内した。

 城内は想像以上に広く、飾られていた燭台や花瓶が公爵家の裕福さを物語っていた。姉妹達は入った瞬間こそ驚いてはいたが、あまり驚いてしまうのも品が無いと慌てて口を噤んでいた。それを横目に見ていたギルバートは少し困ったように笑っていたが、姉妹達は気付いていなかった。
 城内にいる使用人達は人間の形をしていたりしていなかったりと様々であったが、こちらに気付くと笑って会釈をしてくれた。その対応が姉妹達にとって一瞬の安心でもあった。



 ギルバートに案内されて入ったのは応接間で、ギルバートは姉妹達をソファに座らせた後、主人達を呼ぶと言って応接間を後にした。

 残された姉妹達は自分ら以外にいなくなったことを確認し、口を開いた。


「使用人の皆様、とても親切でいらしたわね」

「余所者が来たというのに、何処か嬉しそうありましたわ」

「何故でしょうか?」

「……今はまだわかりませんわ」


 4人は口々に話したが、足音が近づいてきたのを期に静かになった。
 そして扉が開かれると、


「ガルシア御令嬢様。お待たせいたしました。こちら、ラヴェルト公爵の長男ラゼイヤ様、次男のゴトリル様、三男のラトーニァ様、そして四男のバルフレ様に御座います」


 ギルバートが入室し、その後扉を全開にして入室してきた4人の異形に、ガルシア姉妹は笑顔で固まった。
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