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事の発端
罵倒と実態
しおりを挟む「申し訳ございません、ロズワート様。その件につきましては、皆目見当がつきません」
オリビアが放った言葉に、ロズワートは顔を赤くして激昂した。
「嘘をつくな!!貴様らは日頃からアレッサ嬢に嫌がらせをしていたそうではないか!それほどまでに王妃の座を欲していたのか!?」
「いえ……私達はアレッサ様に嫌がらせなどをした覚えは御座いません。それに、アレッサ様と出会ったのはアレッサ様が王宮に御挨拶をするため訪れたあの一度きりに御座います」
「またそのような嘘をつくのか!?オリビア、貴様は顔だけでなく心まで醜くなったのか?」
否、オリビアは嘘などついていなかった。
実際、ガルシア姉妹がアレッサと出会ったのは王宮での挨拶だけで、それ以外では一度も会う機会がなかった。むしろ、アレッサは姉妹達を避けるようにしていた気もする。しかし、姉妹達はアレッサが何かしらの事情で会えないと考えていた。ただ、その時期と重なってロズワートが姉妹達と交流する回数が減り、最終的には現れることもなくなっていた。
そして久々の再会が、このような形になってしまった。
「貴様は昔からそうだった。貴様は自身が周りよりも大人びているように思っているんだろう?」
「そのようなことは御座いません」
「だがな、正直言えば貴様は他の令嬢よりも老けて見えるだけだ。髪も傷み、肌も荒れたその姿に誰が目を向ける。それに貴様のそういう態度も気に食わん。もう少し明るくしたらどうだ?暗い醜女より明るい醜女の方が映えるぞ」
「そうなのですか……」
「先ほども言ったが、何度でも復唱できるぞ!次女のルーナは顔が腐ってるのかと問いたくなるほどに下衆な笑顔しか出せんし歯並びも汚い!顔のそばかすは見てるこっちが吐きたくなるほどにえげつない!三女のエレノアは言うことなすこと幼稚過ぎて病気なのではないかと疑ったこともある!そして末っ子のクロエに関しては乙女の欠片も無いほどに粗暴で生意気ではないか!!そんな平民の女よりも劣る貴様らを私が娶るわけ無いだろう!?」
「はあ……それは、残念に御座います」
ロズワートは次々と姉妹達への暴言を晒していくが、それを遠巻きに見ていた使用人達はただただ首を傾げていた。
現に今目の前でその言葉全てを静かに受け止めているオリビアは、誰が見ても醜女という言葉は相応しくないほどに麗しい女性だった。
ガルシア令嬢の長女であるオリビアは婚約候補を受けた17歳の時から変わらず綺麗であったが、27歳になった今ではますますその美しさに磨きがかかったとも言える。また、ロズワートが指摘した態度であるが、オリビアは慎ましやかなだけで根暗というわけではないのだ。むしろ謙遜し相手を敬うその心得は周りからも評価されている。
そしてそれはオリビアだけに限らず、姉妹達全員に言えたことだった。
24歳になる次女のルーナは笑い方が汚いと称されたが、実際の笑顔は花が綻ぶように愛らしいもので、歯並びもそう対して悪くない。そばかすはむしろ彼女のチャームポイントでもある。彼女が笑えば周りもつられて笑ってしまうほどに、その笑顔は魅力的なのだ。
22歳になった三女のエレノアが幼稚だと称されたのは、単にロズワートと話が合わなかっただけである。彼女の話は架空の出来事に考え老けた夢物語に近いが、発想力と独創性に溢れた彼女の話に引き込まれる者も多い。そして頭脳は姉妹達の中で随一を誇り、かつては学園の論文で賞を取ったこともあったほどの秀才だ。
19歳となる末っ子のクロエは、確かに少々やんちゃではあるが目上に対して生意気な態度を取るような真似などはせず、年相応の活発的な姿で周囲に元気を与えていた。唯一生意気に接していた相手は、気の合わなかったロズワートのみである。
「誰が見ても良き令嬢と思える姉妹達を、ロズワートは一蹴している」
使用人達にはそのように見えていた。
しかしロズワートはそれが真実だと言わんばかりに姉妹達を責めあげ、隣で微笑むだけのアレッサを溺愛していた。
たった1年ばかりの男爵令嬢に何故ロズワートは夢中になったのか。それは誰しもが分かりきっていた。
所謂『女の武器』というやつである。
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