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使用上の注意をよく読み、用法用量を守り正しくお使いください

(五)

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 家族代理の依頼内容として、「皆で一緒に食卓を囲む」という必須項目があった。也耶子が妹役に選ばれたのは年齢設定だけでなく、料理ができるというところもあってのことだと聞いた。
「普段は家政婦に家事は任せてあるから、掃除や料理はほとんどしないんだ。だから、冷蔵庫に何が入っているのか俺は把握できていない。どうせ一人じゃあ食べきれない量だから、好きな材料を使って構わないよ」
 確かに、やまべんの部屋は異様な数のメモ書き以外は綺麗に片付いていた。冷蔵庫の中身も管理が行き届いているようで、保存してある食材が一目でわかるよう購入日や賞味期限など、事細かな項目付きの一覧表が張ってある。
「すごいラインナップ。この量を一人で食べきるには、きっと何週間もかかるでしょうね」
 特に也耶子の目を引いたのは、冷凍庫のズラリと並んだ高級食材の数々だった。
「イタリア産プロシュート、大間マグロ中トロ、松坂牛のステーキ肉、タラバガニ……やまべんってお取り寄せ好きなのね」
 冷凍庫にある高級ステーキ肉を焼いたり、大間マグロなどの海鮮で手巻き寿司の用意をしたりしても良いのだが、せっかくだから皆で一緒に大皿をつつく料理の方が家族らしい。赤ん坊から高齢者まで食べられるとなると……
「鍋だよね、鍋。季節は冬だし、鍋を囲んで一家団欒が一番絵になるよねぇ」
 しかし、ここで普通に水炊きや寄せ鍋を出しては須藤也耶子の腕が廃る。しかも、冷蔵庫や冷凍庫には、也耶子には手が届かない食材が溢れている。
「となると、アレを再現してみますか」

 也耶子は十五年程前にマレーシアで食べた、お腹に優しい「お粥スープのスチームボート(*鍋)」を再現してみようと試みた。当時クアラルンプール在住だった伯父一家と出かけた、お粥鍋の名店は既に閉店してしまったそうだ。もう本家本元を味わえないのだから、自分で再現するしかない。
 お粥鍋の基本であるスープはもちろんお粥なので、〆の炭水化物を用意する必要がない。しかも、鍋の具材から美味しい出汁が出るので、お粥が更に美味しくなるという一石二鳥の絶品鍋なのだ。
 たった一度しか食べたことがないが、今でも忘れられない味だった。
 スープのお粥は米粒が確認できないくらいトロトロにしなければならないが、時間がないから米をミキサーにかけてから煮るしかないと思っていた。だが、目の前にある光景に救いの道が見えた。
「しかし、何故ゆえにこんな大量のお粥があるのだろうか?」
 食器棚には非常食とは言い難いほど、大量のレトルトパウチ粥が保管してあった。それも、お粥に限らず野菜ジュースや乾麺なども、大量にストックされている。
「十パック入りのお粥が八ケースで八十パック。もしもの備えとしては充分だわね。しかも、魚沼産コシヒカリ一〇〇パーセントの白粥なんて、やっぱりやまべんはお取り寄せ好きなのねぇ」
 也耶子がIHコンロの前に立つと、ここにも使い方のメモが貼ってあった。周囲を見回すと電子レンジや食洗機にもメモが貼ってあるのを見つけた。
「料理はしないって言ったのに、使い終わったら必ず換気扇と電源を切るって……多分やまべんは心配性なのね」

 レトルト粥に水分を足して、鶏がらスープの素を入れ煮込んで鍋のスープを作る。お粥スープはだし汁と違い、とろみがあるので火が通りにくい。
 なので、具材は牛や豚の薄切り肉、魚のすり身(*今日は真空パック入りの肉厚本格的さつま揚げを見つけたのでそれを使用する)、豆腐、油揚げ、エノキ、水菜やレタスなどの火が通りやすいものを選ぶと良いかもしれない。
「冷蔵庫にある食材は何でも使って良いって許可が下りたんだから、鹿児島産の黒豚しゃぶしゃぶ肉に、米沢牛の切り落としなんて贅沢しちゃっても構わないわよね」
 紡生はもちろんのこと、士温だって豚肉は食べられる。肉のつけだれ大人は七味唐辛子で辛みを利かせたおろしポン酢を添えれば完璧だ。
「老舗料亭の味……これもお取り寄せ品かしら?」
 さすがに調味料のポン酢に至るまで、スーパーでは見かけたことのないメーカー品だった。
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