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急遽引き受けた恋人代理の後、十二月三十日にも出席代理人の依頼が入り、也耶子は葬儀告別式に参列した。依頼者は取引先の常務の急逝と家族旅行を天秤にかけ、家庭サービスを優先させるため代理出席人を頼んだという。
そして、年始は早々にデパートの初売りの列に並び、実家でのんびりおせち料理を味わう時間もなかった。福袋マニアの依頼者が家族総動員しても人手が足りないと、レア福袋獲得の執念から代理出席人を探し当てたそうだ。
依頼者の数だけ事情があり、仕事がある。出席代理人という隙間稼業は、迷える依頼者たちのお陰で成り立っている。
「あっ、宇賀ちゃんからのメールだ。何々、今回も初挑戦ですがよろしいでしょうか。来週の火曜日に家族代理のご依頼が入りました……家族代理ってことは両親とか兄弟がいるはずだから、私一人だけの依頼ではないってことよね?」
またもや也耶子の元に厄介な仕事依頼が舞い込んだ。今回は一時期巷を騒がせた元IT社長の山野辺勉、通称やまべんが家族代理を依頼してきたそうだ。彼には両親に六歳違いの妹がいて、ちょうど年齢的にも也耶子が妹役に相応しいという。
「今回は妹役の也耶子さんの他に、母親役は三保子さん……このところずっと忙しかったのに、代理出席人の仕事を引き受けても大丈夫なのかしら?」
あれから大塚三保子がつかさ総合代理出席人事務所に登録すると、也耶子の予想通りすぐに代理出席人の依頼が入ってきた。
ところが、三保子に茶道華道、日舞などの心得があるとわかるや否や、若手俳優たちに着付けや所作を教える仕事が主になり、今では彼らから先生と呼ばれる存在にまでなっていた。
「この私が先生ですって、信じられる? 自分は能無しの用無しだとずっと思い込んでいたのに、今では必要としてくれる人たちがいるのよ。なんて素晴らしいんでしょう」
隠れた才能を発揮している三保子は、自信に満ち溢れ十歳若返った気分だとご満悦だ。もちろん、相変わらず冠婚葬祭の代理出席人の依頼もあり、家事に育児と以前の生活からは想像できないくらい充実した日々を過ごしている。
「それから、俳優の篠宮光晴が父親役として依頼を受けてくださいましたって、嘘ぉ! あの往年の大スターが家族代理の父親役? えらく豪華だわね。そういえば……」
つかさ芸能事務所の前社長が急逝した際、ベテラン俳優たちがこぞって事務所を移籍したため、年配の俳優は篠宮しかいなくなってしまったと悦子から聞いていた。
若い頃から人気スターだった篠宮は、数多くの女性と浮名を流した二枚目だ。数年前に四十歳も年下の女性と結婚し話題にもなった。だが結婚数か月後、脳出血で倒れ入院し、生死をさ迷うという不幸に見舞われる。
その際、新妻の「まさかこんな早く介護生活が来るとは思いも寄らなかった」との呟きを枕元で聞き、彼女の胸の複雑な内を知ってしまった。確かに結婚前は冗談でその時が来たら自分が世話をするとは言ったものの、いざ現実を目の前に突き付けられ若妻は恐怖におびえていたそうだ。
そんな妻の心情を慮り、篠宮は自ら離婚を切り出したそうだ。妻も申し訳ないと思いつつ彼からの提案を素直に受け、二人は短い結婚生活を終わりにしたと週刊誌の記事で読んだ。
その後、早期処置のお陰でリハビリも効果を上げ、後遺症も左半身に軽い麻痺が残った程度らしい。今では容姿がアップになるテレビや映画の仕事を避け、舞台一本で活動している。
そして、年始は早々にデパートの初売りの列に並び、実家でのんびりおせち料理を味わう時間もなかった。福袋マニアの依頼者が家族総動員しても人手が足りないと、レア福袋獲得の執念から代理出席人を探し当てたそうだ。
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「今回は妹役の也耶子さんの他に、母親役は三保子さん……このところずっと忙しかったのに、代理出席人の仕事を引き受けても大丈夫なのかしら?」
あれから大塚三保子がつかさ総合代理出席人事務所に登録すると、也耶子の予想通りすぐに代理出席人の依頼が入ってきた。
ところが、三保子に茶道華道、日舞などの心得があるとわかるや否や、若手俳優たちに着付けや所作を教える仕事が主になり、今では彼らから先生と呼ばれる存在にまでなっていた。
「この私が先生ですって、信じられる? 自分は能無しの用無しだとずっと思い込んでいたのに、今では必要としてくれる人たちがいるのよ。なんて素晴らしいんでしょう」
隠れた才能を発揮している三保子は、自信に満ち溢れ十歳若返った気分だとご満悦だ。もちろん、相変わらず冠婚葬祭の代理出席人の依頼もあり、家事に育児と以前の生活からは想像できないくらい充実した日々を過ごしている。
「それから、俳優の篠宮光晴が父親役として依頼を受けてくださいましたって、嘘ぉ! あの往年の大スターが家族代理の父親役? えらく豪華だわね。そういえば……」
つかさ芸能事務所の前社長が急逝した際、ベテラン俳優たちがこぞって事務所を移籍したため、年配の俳優は篠宮しかいなくなってしまったと悦子から聞いていた。
若い頃から人気スターだった篠宮は、数多くの女性と浮名を流した二枚目だ。数年前に四十歳も年下の女性と結婚し話題にもなった。だが結婚数か月後、脳出血で倒れ入院し、生死をさ迷うという不幸に見舞われる。
その際、新妻の「まさかこんな早く介護生活が来るとは思いも寄らなかった」との呟きを枕元で聞き、彼女の胸の複雑な内を知ってしまった。確かに結婚前は冗談でその時が来たら自分が世話をするとは言ったものの、いざ現実を目の前に突き付けられ若妻は恐怖におびえていたそうだ。
そんな妻の心情を慮り、篠宮は自ら離婚を切り出したそうだ。妻も申し訳ないと思いつつ彼からの提案を素直に受け、二人は短い結婚生活を終わりにしたと週刊誌の記事で読んだ。
その後、早期処置のお陰でリハビリも効果を上げ、後遺症も左半身に軽い麻痺が残った程度らしい。今では容姿がアップになるテレビや映画の仕事を避け、舞台一本で活動している。
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