これにて一件落着、菊姫は名奉行

勇内一人

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四の巻 一膳飯屋お多福幽霊騒動

十二

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 一方その頃、江戸城では。菊姫を町に留めようとお園の方が画策していると、小耳に挟んだ甚八が将軍に報告している最中だった。
「お園の奴、菊に会いに町に出たそうじゃな」
「はい、元祐筆のお伊勢の手引きだそうです」
 いくら秘密にしたとて、これくらい忍の甚八にはお見通しだった。
「ほぉお、町には大奥と繋がっている者がおるのだな?」
「お伊勢をはじめとして、町中には数名おります」
「それで、お園は要らぬ知恵を付けたのじゃなぁ」
「遠い大名領に嫁ぐより、町に住んでいた方が気兼ねなく会える。お方様はそう考えられたようです」
 そう聞くと、将軍は急に考え込んでしまった。父として、将軍として、思うところがあるようだ。
「菊のような聡明な娘ならば、一大名領の主をも尻に敷きかねぬ。それが良い方向に進めば良いのだが、そうとも限らない」
 万が一、嫁ぎ先で敵を作れば騒動の元になり、出る釘は打たれるだろう。菊に見合った縁談相手を選ばなければ、いずれ徳川幕府にも火の粉がかかる恐れもある。それならば、いっそのこと幕府とは無関係の相手と結ばれた方が、全て丸く収まるかもしれない……
「ふぅ、菊の縁組は本当に頭が痛い難問じゃ。しばらくは江戸の町で暮らすよう、お園の案に乗っかろうではないか」
「御意」
 これからも菊姫が安心して江戸の町で暮らせるよう、細心の注意を払うべく甚八は夜の闇に消えていった。例の袋竹刀の件が公方様に知られずに済んだことを安堵しながら……
 
「そういえば、光之助殿。お多福の捕物ではいつもの臆病風が、何処かに消え去ったようだったのぉ」
 相変わらず緑風館では臆病風に吹かれて、対戦相手から一本取れずにいる。ところが、お多福では悪い連中をやっつけることに頭がいっぱいで、恐怖など感じる暇さえなかった。
「あの時は必死だったから、怖いなんてこれっぽっちも思わなかった」
 剣術と人助けは全く違う、別物だ。三太のため、お多福のためと思ったら、自然と体が動いていた。
 手前は体も小さく剣術も苦手だが、人を助けるのは嫌いではない。むしろ、誰かの役に立てるのは嬉しいし、人の役に立ちたいと望んでいる。
「できることは限られているけど、誰かの役に立てるなら本望だよ」
「そうか、光之助殿も菊と同じように考えておるのじゃな。これからも二人して、一緒に困った子供たちを助けていこうぞ」
「もちろん。これからも、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお頼み申すぞ」
 熱っぽく語る光之助に触発され、菊も奮起していた。父上が直接手を下せないのならば、これからも手前が困っている子供を助けなければならないだろう。それが徳川家将軍の娘として生まれた我が身の宿命なのだから。
 決意新たに晴れ晴れとした表情で菊は呟いた。
「これにて一件落着」 (了)
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みんなの感想(1件)

ふくろう
2023.08.23 ふくろう

私は、「南総里見八犬伝」が愛読書で、犬好きで、トドメに日本武術の指導をしています。

この作品は、全てがストライクで、興味津々です!(*^▽^*)

特に豆福が出てきたあたりから。

狆は次に飼ってみたい犬種の一つで、今後の展開に目が離せません。

生き物に優しい菊姫、応援してます!

勇内一人
2023.08.24 勇内一人

ふくろう様、感想ありがとうございます〜地味に活動しているので、読んでいただくだけでも嬉しいです。ジャンルは児童書ですが子供騙しにならないよう、大人でも楽しめる作品を目指して書きました。最後までお付き合いよろしくお願いしますm(_ _)m

解除

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