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三の巻 赤ん坊置き去り騒動
十四
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すると、翌日、奇跡が起きた。庄吉の話を聞いた与市が女房を伴い南町奉行を訪れた。身寄りのない四郎を是非とも養子にしたいと申し出たのだ。
「寺の方でも手を焼いていたとうかがいました。それならば、是非とも私どもにあの子を引き取らせていただけないでしょうか?」
砂糖騒動での与市の働きぶりは、周五郎にも伝わっている。真面目で信用できるし、子供好きだという優しい人柄も承知の上だ。それらを踏まえて四郎の将来を考えたならば、答えは明確になるだろう。
「かなりやんちゃ坊主だと聞いたが、それでも構わないか?」
「はい。私も女房も気が長い方ですから、じっくりと向き合っていきます」
「承知した。私から寺に話をしておこう」
それから嬉しいことに養子縁組の話は進み、四郎も与市夫婦に慣れていった。やんちゃ坊主で悪戯ばかり繰り返していた四郎も、新しい父母の前では素直で甘えん坊の息子に変身したという。
「四郎殿は心が満たされたようだな」
聞いたところによると与市も毎日嬉しそうに、息子の自慢話をしているそうだ。ずっと迷子だった四郎も、ようやく落ち着ける手前の居場所を見つけた。これからは心穏やかに暮らしていけるだろう。
「菊殿、これでようやく騒動は解決したようだな」
難しい刑罰についてはわからないが、光之助は少しでも手前たちが役に立てたのなら幸いだと晴れやかな気分だった。
「ふむ、これにて一件落着じゃ」
はじめは単なる好奇心から庶民の暮らしを体験したいと望んだ。だが、もしかしたら窮地に陥った子らを助けるため、将軍である父上の代わり使命を託されたのかもしれない……
今はそんな風に、菊は見えない縁を感じていた。
「砂糖問屋の小僧と益々仲良くなったと? 菊は本当に物好きな女児じゃのぉ」
「姫君の分け隔てないお人柄が、皆に好かれているようです」
「それにしても、子供を食いものにして銭を稼ぐとは、町にはさもしい輩が居るものだ。今は菊とて周りの子ら同じような状況じゃ。早く嫁ぎ先を見つけ連れ戻さなければ安心できぬなぁ」
しかし、徳川家将軍の姫君に釣り合う相手など、そう簡単に見つからない。しかも、将軍には菊以外にもまだたくさんの姫君がいるのだ。どの姫から先に相手を見つけるか、順番も考えなくてはならぬ。
「はぁ、面倒だのぉ」
庶民だけでなく子沢山は将軍とて頭の痛いことのようだ。
「いっそのこと、菊がこのまま江戸の町に残れば……いかん、いかん。そんな風に考えてはならぬ」
だが、しかし。これからずっと町人として暮らしていけば、菊姫は不自由な人生から解放されるかもしれないではなかろうか。そう考えたら、それも幸せかもしれないとも思える。
果たして徳川家将軍の姫君として生まれたことが、幸せなのか不運だったのか。それは父親である将軍にもわからぬことだった。
「甚八、引き続き菊の身に危険が及ぼさぬよう頼んだぞ」
「御意」
「寺の方でも手を焼いていたとうかがいました。それならば、是非とも私どもにあの子を引き取らせていただけないでしょうか?」
砂糖騒動での与市の働きぶりは、周五郎にも伝わっている。真面目で信用できるし、子供好きだという優しい人柄も承知の上だ。それらを踏まえて四郎の将来を考えたならば、答えは明確になるだろう。
「かなりやんちゃ坊主だと聞いたが、それでも構わないか?」
「はい。私も女房も気が長い方ですから、じっくりと向き合っていきます」
「承知した。私から寺に話をしておこう」
それから嬉しいことに養子縁組の話は進み、四郎も与市夫婦に慣れていった。やんちゃ坊主で悪戯ばかり繰り返していた四郎も、新しい父母の前では素直で甘えん坊の息子に変身したという。
「四郎殿は心が満たされたようだな」
聞いたところによると与市も毎日嬉しそうに、息子の自慢話をしているそうだ。ずっと迷子だった四郎も、ようやく落ち着ける手前の居場所を見つけた。これからは心穏やかに暮らしていけるだろう。
「菊殿、これでようやく騒動は解決したようだな」
難しい刑罰についてはわからないが、光之助は少しでも手前たちが役に立てたのなら幸いだと晴れやかな気分だった。
「ふむ、これにて一件落着じゃ」
はじめは単なる好奇心から庶民の暮らしを体験したいと望んだ。だが、もしかしたら窮地に陥った子らを助けるため、将軍である父上の代わり使命を託されたのかもしれない……
今はそんな風に、菊は見えない縁を感じていた。
「砂糖問屋の小僧と益々仲良くなったと? 菊は本当に物好きな女児じゃのぉ」
「姫君の分け隔てないお人柄が、皆に好かれているようです」
「それにしても、子供を食いものにして銭を稼ぐとは、町にはさもしい輩が居るものだ。今は菊とて周りの子ら同じような状況じゃ。早く嫁ぎ先を見つけ連れ戻さなければ安心できぬなぁ」
しかし、徳川家将軍の姫君に釣り合う相手など、そう簡単に見つからない。しかも、将軍には菊以外にもまだたくさんの姫君がいるのだ。どの姫から先に相手を見つけるか、順番も考えなくてはならぬ。
「はぁ、面倒だのぉ」
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だが、しかし。これからずっと町人として暮らしていけば、菊姫は不自由な人生から解放されるかもしれないではなかろうか。そう考えたら、それも幸せかもしれないとも思える。
果たして徳川家将軍の姫君として生まれたことが、幸せなのか不運だったのか。それは父親である将軍にもわからぬことだった。
「甚八、引き続き菊の身に危険が及ぼさぬよう頼んだぞ」
「御意」
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