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三の巻 赤ん坊置き去り騒動
十三
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それから、長屋にいた子供たちは身元がわかり、親元へと返された。ただ、四郎だけは少し様子が違っていたらしい。
「一昨年の神田明神の祭りで迷子になったそうで……」
四郎という名しかわからなく、それ以上の手がかりは何もなかった。仕方がないので近所の寺で預かり、親が名乗り出るのを待っていたそうだ。
ところが、時ばかり過ぎて一向に親が現れる気配がなかった。それゆえ、置き去りにされたと結論付けたようだ。そして、世話をしていた寺が、そのまま四郎の身を請け負うことになったという。
さかのぼること奈良時代、孤児救済を目的にした施設ができ、鎌倉時代には全国に普及していった。やがて、それ以外の一般寺院も戦いや災害で被災したり、身寄りがなかったりする孤児を救う役目を担ってきた歴史がある。
やがて、四郎はやんちゃ坊主に育ち、近頃は寺の住職たちも手を焼いていたようだ。派手な悪戯を繰り返し、叱られては仕置きされる日々を送っていたと聞く。そして、遂には仕置に耐えかねて寺から逃げ出したらしい。
「それならば、四郎殿はその寺に戻るのか?」
「向こうは手を焼いていたから、今度こそ改心させると意気込んでいるそうだ」
安易ではあるが四郎という名から、四番目の子供ではないかと推測できる。もしかしたら、親は子沢山を苦にして、わざと置き去りにしたのかもしれない。
「私は父上の十二人目の子供だが、幸いにも数合わせの名ではないぞ。もちろん、他の兄弟姉妹たちも然りじゃ」
「じゅ、十二人目? き、菊殿の家はそんなに子供がいるのか?」
腹違いの兄弟姉妹がいるとは聞いていたが、十二人目ともなると驚くというより呆れてしまう。しかも、まだ他に弟妹もいると聞いたような気がする。それならば、合わせて何人の兄弟姉妹がいるのだろうか?
「あっ! ならば、光之助殿のお父上は五人目の男児なのか?」
「いや、父上は長男だ。祖父の恩人の名を貰い受け、周五郎という名にしたそうだ」
「それならば、四郎も当てにはならぬ話だと思わぬか?」
「まぁ、そうだがなぁ」
だが、いつの時代でも子沢山は家計をひっ迫するゆえ、あり得ない話ではないはずだ。それよりも、菊の父親はそんなに子がいては、さぞかし大変だろうに……
もしや、菊もそれゆえ富岡の家に預けられたのではあるまいか?
またしても光之助の頭を悩ます菊の謎が深まってしまった。
ひとまず騒動が解決したところで、二人はさっそく庄吉に報告しに行った。
「今頃、四郎は寺でこっぴどく絞られてやしないかな?」
「さぁ、どうだろう。たかが七、八歳くらいの子供の悪戯だ。そんな質の悪いものではなかろうに、寺の和尚たちは厳しくしつけると息巻いていたそうだ」
「うへぇ、おっかない」
「それでも、そのまま寺の小僧になってしまうのだろうか?」
光之助も幼い四郎を思い、一抹の不安を抱いていた。
「そうだね、きっと。その他に道はないからね。でも、番頭さんがこの話を聞いたら、どう思うのかなぁ」
庄吉は番頭の与市に思いを馳せる。子供好きなのに子のいない与市夫婦ならば、きっと四郎の良い父ちゃんと母ちゃんになれるのにと……
「一昨年の神田明神の祭りで迷子になったそうで……」
四郎という名しかわからなく、それ以上の手がかりは何もなかった。仕方がないので近所の寺で預かり、親が名乗り出るのを待っていたそうだ。
ところが、時ばかり過ぎて一向に親が現れる気配がなかった。それゆえ、置き去りにされたと結論付けたようだ。そして、世話をしていた寺が、そのまま四郎の身を請け負うことになったという。
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「向こうは手を焼いていたから、今度こそ改心させると意気込んでいるそうだ」
安易ではあるが四郎という名から、四番目の子供ではないかと推測できる。もしかしたら、親は子沢山を苦にして、わざと置き去りにしたのかもしれない。
「私は父上の十二人目の子供だが、幸いにも数合わせの名ではないぞ。もちろん、他の兄弟姉妹たちも然りじゃ」
「じゅ、十二人目? き、菊殿の家はそんなに子供がいるのか?」
腹違いの兄弟姉妹がいるとは聞いていたが、十二人目ともなると驚くというより呆れてしまう。しかも、まだ他に弟妹もいると聞いたような気がする。それならば、合わせて何人の兄弟姉妹がいるのだろうか?
「あっ! ならば、光之助殿のお父上は五人目の男児なのか?」
「いや、父上は長男だ。祖父の恩人の名を貰い受け、周五郎という名にしたそうだ」
「それならば、四郎も当てにはならぬ話だと思わぬか?」
「まぁ、そうだがなぁ」
だが、いつの時代でも子沢山は家計をひっ迫するゆえ、あり得ない話ではないはずだ。それよりも、菊の父親はそんなに子がいては、さぞかし大変だろうに……
もしや、菊もそれゆえ富岡の家に預けられたのではあるまいか?
またしても光之助の頭を悩ます菊の謎が深まってしまった。
ひとまず騒動が解決したところで、二人はさっそく庄吉に報告しに行った。
「今頃、四郎は寺でこっぴどく絞られてやしないかな?」
「さぁ、どうだろう。たかが七、八歳くらいの子供の悪戯だ。そんな質の悪いものではなかろうに、寺の和尚たちは厳しくしつけると息巻いていたそうだ」
「うへぇ、おっかない」
「それでも、そのまま寺の小僧になってしまうのだろうか?」
光之助も幼い四郎を思い、一抹の不安を抱いていた。
「そうだね、きっと。その他に道はないからね。でも、番頭さんがこの話を聞いたら、どう思うのかなぁ」
庄吉は番頭の与市に思いを馳せる。子供好きなのに子のいない与市夫婦ならば、きっと四郎の良い父ちゃんと母ちゃんになれるのにと……
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