これにて一件落着、菊姫は名奉行

勇内一人

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三の巻 赤ん坊置き去り騒動

十一

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 生活に苦しむ親から二束三文で幼い子供を預かり、高値で子のない夫婦に取り成していたという。そして、高値のつかない子供を渡世人風の男に預け、例の手口で日銭を稼がせていたらしい。
 何を隠そう神社でお峰に声をかけてきた、このお婆こそが黒幕だったのだ。
「子供が欲しい夫婦もいれば、子供が要らない夫婦もいる。両方に橋渡しするのが手前の役目だよ」
「伊吹屋さんから二十両もの銭を巻き上げたらしいではないか。何が橋渡しじゃ、偉そうに言うではないぞ」
「ふん、二十両ぽっちでごちゃごちゃ言われたくないねぇ。でも、伊吹屋は大喜びしていただろう? 安いもんじゃないか、もっと欲しいくらいだよ」
 人の善い伊吹屋につけ込んで銭がなくなれば弓太郎をだしに、強請りを働きまた銭を荒稼ぎするつもりでいたようだ。
 ところが、伊吹屋よりも更に気前の良い夫婦を見つけたらしく、弓太郎を連れ去って夫婦に渡そうと画策したという。
「人形でもあるまいし、赤ん坊を何だと思っておるのだ?」
 お婆の話を聞くにつれ、菊も光之助も怒りが沸々と沸いてきた。
「何を生意気な口をきいて。人形のように手前が産んだ赤ん坊を、捨てる親だっているんだよ」
 もとはといえば、お婆が言った通り人助けのために始めたことだった。
「あれは、どうしても子が欲しいと祈願しに来た夫婦との出会いがきっかけだったのさ」
 その頃、子沢山で生活に困窮している大工の女房から、お婆は悩みを打ち明けられていたそうだ。
「一人でも多く奉公に出したい、できるものなら口減らしをしたい。でも、まだ子供が小さくて、その時期には早すぎる。亭主は働き者だし、それなりに稼ぎもあるけれど、子沢山は大変なんだよ。なんて笑っていたけど目は真剣だった。だから……」
 その時、お婆は名案を思い付く。子供が欲しいと願っている夫婦に大工の子供を一人譲れば、皆が幸せになれるのではないかと。
「ちょ、ちょと、待った! 人様の話をしておるのだよな? 鳥や金魚を貰い受けるのとは違うのだぞ」
 それでも、この時代は貧しい家計の負担を減らすために、我が子を奉公に出したり養子にやったりするのはよくある話だった。そこで両者に話を持ち掛けると、とんとん拍子に事が進んだ。
 すると、念願の子を手に入れた夫婦から、お婆は思わぬ謝礼を貰ったそうだ。
「善意でやったことに色がついたのさ。銭なんか当てにしてなかったのに」
 味をしめたお婆は子を望む夫婦を見つけては、取り成していくようになったようだ。その中の一人、弓太郎も親の意を添わずして、この世に生を受けたという。
「お武家さんに仕えている娘が秘かに産んだ子を、処分して欲しいと頼まれたのさ」
「それでは、弓太郎の母親はお婆様が最初に話した通り、やむにやまれぬ事情で手放したのですね?」
 思わずお峰が口を挟む。
「さあね、そこまで詳しい話は知らないよ。ただ、使いの者って奴が来て、赤ん坊を置いていっただけだからね」
 その話が嘘か誠か知らないし、両親も誰だかわからない。弓太郎はそんな不憫な生まれだった。
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