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三の巻 赤ん坊置き去り騒動
十
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その頃、菊は子宝祈願の話を思い出し、光之助と共に伊吹屋へと急いでいた。
「菊殿、この件は我らが口出しするべきではないと思うのだが」
事の大きさに分別を働かせた光之助は、菊の暴走を止めようと説得する。ところが、菊を持ち前の正義感が、分別よりも勝ったようだ。
「思い立ったが吉日という言葉があるであろう。奉行所に任せていたら、せっかくの機会を逃がしてしまうかもしれぬ。その前に真相を暴かなくてはならぬと思わぬか?」
「そ、それはそうだが。でも……」
「それならば、光之助殿は尻尾をまいて帰るのだな?」
説得するつもりが説得されるとは情けない。
「もぉ、菊殿は全くもって強引なのだな」
文句を言いながらも、菊一人には任せられないと光之助は後をついて行った。
そして、二人は伊吹屋で事情を説明し、渋るお峰を伴い日本橋茅場町へと向かった。
「例のお婆はおるだろうか?」
菊はお峰に弓太郎を託したお婆に狙いを付けていた。
「あ、あのお婆様よ」
腰の曲がった銀髪のお婆が、参拝している女に声をかけている姿が見える。
「お峰殿、間違いないですね?」
光之助が念を押す。
「はい、絶対に間違いありません。あのお婆様です」
「それでは、いざ話を付けに参るぞ」
何やら熱心に参拝客に説明しているお婆の背後からお峰が声をかける。
「お婆様、あの節はありがとうございました」
「な、何だい、お前さんは」
「あら、伊吹家のお峰ですよ。お忘れですか?」
「はてさて、どこのどなた様でしょうね」
しらを切るお婆に業を煮やし、光之助が詰め寄る。
「しらばっくれるな、お婆殿。二十両もの大金を手にして、それでもお主はお峰殿を忘れたと言うのであろうか」
「ひぇえ、あ、あれは、あの金は……」
「忘れたとは言わせぬぞ、お婆殿」
じりじりと菊も詰め寄る。すると、このやり取りを見ていた参拝客の女が口を挟んだ。
「ど、どうしても子が欲しいなら口利きすると声をかけられたんです。でも、私は聞かなかったことにします、ごめんくださいまし」
怪しい雲行きに恐れをなして、女はそそくさと逃げ出した。
「ちょ、ちょっと待っとくれよ」
慌てて呼び戻そうとしたが、女の姿はもうどこにも無かった。
「くそぉ、大事な儲け話が……」
小さな呟きも二人は聞き漏らさなかった。
「お婆殿、今何て言ったのかのぉ」
「儲け話とは、はてさて一体何だろうな?」
「そ、それは……」
「菊殿、この件は我らが口出しするべきではないと思うのだが」
事の大きさに分別を働かせた光之助は、菊の暴走を止めようと説得する。ところが、菊を持ち前の正義感が、分別よりも勝ったようだ。
「思い立ったが吉日という言葉があるであろう。奉行所に任せていたら、せっかくの機会を逃がしてしまうかもしれぬ。その前に真相を暴かなくてはならぬと思わぬか?」
「そ、それはそうだが。でも……」
「それならば、光之助殿は尻尾をまいて帰るのだな?」
説得するつもりが説得されるとは情けない。
「もぉ、菊殿は全くもって強引なのだな」
文句を言いながらも、菊一人には任せられないと光之助は後をついて行った。
そして、二人は伊吹屋で事情を説明し、渋るお峰を伴い日本橋茅場町へと向かった。
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菊はお峰に弓太郎を託したお婆に狙いを付けていた。
「あ、あのお婆様よ」
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「お峰殿、間違いないですね?」
光之助が念を押す。
「はい、絶対に間違いありません。あのお婆様です」
「それでは、いざ話を付けに参るぞ」
何やら熱心に参拝客に説明しているお婆の背後からお峰が声をかける。
「お婆様、あの節はありがとうございました」
「な、何だい、お前さんは」
「あら、伊吹家のお峰ですよ。お忘れですか?」
「はてさて、どこのどなた様でしょうね」
しらを切るお婆に業を煮やし、光之助が詰め寄る。
「しらばっくれるな、お婆殿。二十両もの大金を手にして、それでもお主はお峰殿を忘れたと言うのであろうか」
「ひぇえ、あ、あれは、あの金は……」
「忘れたとは言わせぬぞ、お婆殿」
じりじりと菊も詰め寄る。すると、このやり取りを見ていた参拝客の女が口を挟んだ。
「ど、どうしても子が欲しいなら口利きすると声をかけられたんです。でも、私は聞かなかったことにします、ごめんくださいまし」
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「ちょ、ちょっと待っとくれよ」
慌てて呼び戻そうとしたが、女の姿はもうどこにも無かった。
「くそぉ、大事な儲け話が……」
小さな呟きも二人は聞き漏らさなかった。
「お婆殿、今何て言ったのかのぉ」
「儲け話とは、はてさて一体何だろうな?」
「そ、それは……」
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