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壱の巻 ほろ苦い砂糖騒動
二十一
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根岸屋は砂糖問屋の資格こそ剥奪されなかったが、こっぴどく絞られ御用達の夢は破れた。
実はこの時、別の場所で江戸幕府や大奥に口利きするとの名目で、商人から金を騙し取っていた侍も捕まったそうだ。
その多くは御用達には及ばないような中規模の商店ばかり。見栄っ張りで野心家の店主たちは、皆ころりと騙されていたという。
「あれから、旦那さんも気落ちしちまって大変さ」
騙されていたと判明し、彦左衛門は寝込んでいるそうだ。砂糖のいかさま商売は公にはならなかったが、これ以上悪さに目をつぶるわけにもいかない。
「だから、番頭さんが先頭になって誤魔化しを正すよう、動き始めたんだ」
もちろん、彦兵衛にも声掛けしたそうだが、今はそれどころではないから好きにしろと返ってきたらしい。
何でもおとなしい性格の与市が、店主に向かって懇々と説教をしたという。
「もしも根岸屋が潰れたら俺たちは路頭に迷う。それなら今までのうっ憤を吐き出さないと、腹の虫がおさまらないってね。根岸屋は大丈夫かな? 取り潰しにはならないよね」
「こらからはいかさま商売を正し、真面目な商いをしていけは大丈夫だ」
庄吉を安心させようと、菊が太鼓判を押す。
「それに与市さんが番頭としてしっかり役目を果たせば、大丈夫だろう」
光之介も同調して後押しする。
「そうだね。この件で旦那さんも今じゃ番頭さんにおんぶに抱っこの状況だものな」
疎ましく思っていた与市の存在が、今ではありがたいと感じているそうだ。
「これにて一件落着。甘い話には裏がある……肝に命じて同じことを繰り返さないよう願うだけだな」
災い転じて福となす。庄吉たちのためにも根岸屋が正しい商売をして、客から信頼される店に生まれ変わるよう願うだけだった。
砂糖の一件は片付いたが、肝心の甘露庵と呉竹屋の仲は解決していない。
京菓子を広めるため巳之吉は江戸に出店したものの、甘露庵のように町人に愛される菓子屋になっていないと悩んでいた。値の張る材料を使い、味も見た目も絶対に負けないはずなのに、どうしてだろうか?
一方、甘露庵では手頃な値段で食べやすいゆえ、ありがたみが薄いのか客の食べ方が雑だと悩んでいた。
「串を素早く動かして食べるから、団子が串に残ってしまう。でも、お客さんはそんなことを気にせず、食べ終わってしまう」
江戸っ子の細かいことにこだわらず、せっかちな気質も要因かもしれない。団子は今でいうところのファストフードのような感覚で、手早く食べられるためにじっくり味わうことがないように感じるらしい。
「売れ行きが好調だから気にするなって、父さんは言うけれど」
もう少し味わって食べて欲しいというのが本音のようだ。
「それに……」
甘露庵のお美代と呉竹屋の卯之吉の仲も言い出せないままだ。砂糖騒動も収まり一件落着かとも思いきや、相変わらず両店主は犬猿の仲。どうしたものかと菊と光之助は頭をひねり、両店を競わせる味比べを思いついた。
「お互いに江戸で一番だと言い合ってもらちが明かない。どちらの菓子が美味しいか、皆に決めてみようではないか」
互いの店で売っている菓子をそれぞれ五十個用意して、無料で町の人たちに食べてもらう。そして、どちらが美味しいか決めてもらおうと提案した。
「それは面白そうね。さっそく父さんに話してみるわ」
「俺も親父を誘ってみるよ」
話を聞いた店主達も我こそが一番だと、乗り気になったのは言うまでもない。
実はこの時、別の場所で江戸幕府や大奥に口利きするとの名目で、商人から金を騙し取っていた侍も捕まったそうだ。
その多くは御用達には及ばないような中規模の商店ばかり。見栄っ張りで野心家の店主たちは、皆ころりと騙されていたという。
「あれから、旦那さんも気落ちしちまって大変さ」
騙されていたと判明し、彦左衛門は寝込んでいるそうだ。砂糖のいかさま商売は公にはならなかったが、これ以上悪さに目をつぶるわけにもいかない。
「だから、番頭さんが先頭になって誤魔化しを正すよう、動き始めたんだ」
もちろん、彦兵衛にも声掛けしたそうだが、今はそれどころではないから好きにしろと返ってきたらしい。
何でもおとなしい性格の与市が、店主に向かって懇々と説教をしたという。
「もしも根岸屋が潰れたら俺たちは路頭に迷う。それなら今までのうっ憤を吐き出さないと、腹の虫がおさまらないってね。根岸屋は大丈夫かな? 取り潰しにはならないよね」
「こらからはいかさま商売を正し、真面目な商いをしていけは大丈夫だ」
庄吉を安心させようと、菊が太鼓判を押す。
「それに与市さんが番頭としてしっかり役目を果たせば、大丈夫だろう」
光之介も同調して後押しする。
「そうだね。この件で旦那さんも今じゃ番頭さんにおんぶに抱っこの状況だものな」
疎ましく思っていた与市の存在が、今ではありがたいと感じているそうだ。
「これにて一件落着。甘い話には裏がある……肝に命じて同じことを繰り返さないよう願うだけだな」
災い転じて福となす。庄吉たちのためにも根岸屋が正しい商売をして、客から信頼される店に生まれ変わるよう願うだけだった。
砂糖の一件は片付いたが、肝心の甘露庵と呉竹屋の仲は解決していない。
京菓子を広めるため巳之吉は江戸に出店したものの、甘露庵のように町人に愛される菓子屋になっていないと悩んでいた。値の張る材料を使い、味も見た目も絶対に負けないはずなのに、どうしてだろうか?
一方、甘露庵では手頃な値段で食べやすいゆえ、ありがたみが薄いのか客の食べ方が雑だと悩んでいた。
「串を素早く動かして食べるから、団子が串に残ってしまう。でも、お客さんはそんなことを気にせず、食べ終わってしまう」
江戸っ子の細かいことにこだわらず、せっかちな気質も要因かもしれない。団子は今でいうところのファストフードのような感覚で、手早く食べられるためにじっくり味わうことがないように感じるらしい。
「売れ行きが好調だから気にするなって、父さんは言うけれど」
もう少し味わって食べて欲しいというのが本音のようだ。
「それに……」
甘露庵のお美代と呉竹屋の卯之吉の仲も言い出せないままだ。砂糖騒動も収まり一件落着かとも思いきや、相変わらず両店主は犬猿の仲。どうしたものかと菊と光之助は頭をひねり、両店を競わせる味比べを思いついた。
「お互いに江戸で一番だと言い合ってもらちが明かない。どちらの菓子が美味しいか、皆に決めてみようではないか」
互いの店で売っている菓子をそれぞれ五十個用意して、無料で町の人たちに食べてもらう。そして、どちらが美味しいか決めてもらおうと提案した。
「それは面白そうね。さっそく父さんに話してみるわ」
「俺も親父を誘ってみるよ」
話を聞いた店主達も我こそが一番だと、乗り気になったのは言うまでもない。
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